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ありえねぇ !! 3話目 後編

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『ただ相手は【罪歌の子供】だった【贄川春奈】って女の子が心底愛していた【那須島隆志】という名だ。今となっては【駆け落ち】よりも事件性の方を疑うけどね。紀田君の方がきっと詳しいだろうから、機会があったら聞いてみたらいいと思う』
「てめーは一々回りくどいんだよ。そういう事は早く言え!!」

胸の中で一旦悪女呼ばわりした少女が、また元の優等生に逆戻りだ。
忘れないよう、心の中に【那須島隆志】の名前を、もう一度インプットする。

「で、最後の一つはなんだ?」
『大量の食材と真っ赤なエプロンを忘れているよ。セルティに明日届けてもらおうかとも考えたけど、うちの冷蔵庫に入りきらなかったから、生肉と魚と牛乳の保証ができない。取りに来るのなら、近くにいるうちのがいいと思った。どうする?』

折角上司が帝人へのご褒美にと、買い与えてくれたものだ。
それをむざむざと腐らせるなど、律儀な静雄の心情からありえない。
「……今から直ぐ戻る……」
『うん、待ってる』


電話を切り、帝人を抱えて街中をとぼとぼと歩くと、あちらこちらと随分黄色い布を身に着た奴らが、徒党を組んで歩いているのが目に付いた。
風の噂では、彼ら【黄巾賊】は、自分が所属している【ダラーズ】の誰かが【切り裂き魔】だったと疑い、犯人捜しに奔走していると聞く。

まだ何も終わっていないのだ。
あの事件は。
終わるどころか、ますます火種が飛び火してやがる。


池袋がきな臭くなっている現実に眉をしかめつつ、タバコを咥えて空に紫煙を吐き出せば、巨大広告看板が目に飛び込む。
其処にはタキシード姿の羽島幽平が、無表情の美しい顔でチョコレートを口に咥えていた。

「げっ、やべぇ」
《ん? 静雄さん、どうしました?》
「マジで忘れてた……。すまん、幽ぁぁぁぁ!!」

慌てて携帯を取り出し、コール音を鳴らす。
多忙な弟が簡単に通じるとは思わなかったが、せめて留守番電話サービスにでも、一声何かを残したかったのだ。
だが意外な事に、たった五コール目で、久しぶりに弟の『もしもし、兄さん?』という生声が、耳に届いた。


★☆★☆★


「うん、俺は全く平気。怪我どころかかすり傷一つないし。心配してくれてありがとう」


兄から電話を貰うなんて、随分と久しぶりだ。
昨日携帯を喧嘩で壊してしまい、連絡が遅くなったと正直に詫びる所も兄らしい。

くつろぎながらミルクティーを啜り、ミカドが作ったクッキーを頬張ると、母が作ってくれたような、とても懐かしい味がする。
シナモンシュガードーナツとココアのドーナツボールも大量にあるし、今ここに兄がいたら、甘いものがとても好きだから……、喜んで豪快に食べただろう。


「こらこら、邪魔しちゃ駄目」
『ん? 誰かいるのか?』
「独尊丸……、俺最近、仔猫を飼ったんだ」
『ああ、そういや見た。TVで』


テーブルによじ登り、クッキーに鼻をくっつける猫から皿を取り上げると、爪を立てて抵抗された。

『生活に支障はないか?』
「問題はエレベーターだね。16階までの非常階段での上り下り、結構大変だし。復旧工事も三週間かかるらしいから、うんざりしちゃって。俺の住んでる場所、ファンにばれたし、周辺住民に迷惑かけるのも何だし、いっそこの際だから引越ししようと思う」

『荷物の運び出しはどうするんだ? 作業が大変だぞ』
「俺は平気、どうせ業者任せだし」
『お前は鬼か。エレベーター無いんだろ。悲鳴モンじゃねーか』
「あはははは」

受話器の向こう側で、何故か兄が息を呑んだ。

「ん? 兄さん急にどうしたの?」
『…か、かすか?……、なあ、…………お前、今笑わなかった?………』
「え?」

言われてみて、はっと気づく。
口元に手を当て、自分自身驚いた。

「……そういえば、あれ? 俺、今笑ってた……、みたい……」
『……幽ぁ♪……』

電話口の向こうで、兄の激しい歓喜が伝わってくる。

『……すげぇな!! やっぱり仔猫って癒しになるんだな。そーかそーか、良かった。お前もちゃんと感情表せるんじゃねーか。良かった……、俺のせいで、俺が無茶ばっかやるから、お前無表情になって。……、ああああ、こんな嬉しい事はねぇ。お前が治るかもしんねぇなんて、……、本当に良かった……』

「……うん……」

驚きに目を見開きつつ、素直にこくりと頷いた。

独尊丸を飼い始めて、もう一ヶ月になるが、その間自分は何一つ変化はなかった。
けど、ミカドの幽霊を家に入れてから、僅か一日。

明らかに、彼のおかげだろう。
そう気づいたら、何故かどくんどくんと心臓の音が高鳴り、それも段々大きくなっていく。

『なあ幽、俺、引越しの手伝いにいこうか? その独尊丸っつー猫、間近で見てみたいし』
「駄目。今俺に無用心に近寄れば、スクープを狙うカメラや報道陣の餌食になるよ?」

咄嗟に、もっともらしい言い訳で牽制してしまった。
兄は滅茶苦茶勘が鋭いから、ミカドの事が見えるかもしれない。
あの子が怯えたら可哀想だし、それに、今は誰にも見せたくない。


「引越し先が決まったら、知らせるから。それじゃ兄さん、電話わざわざありがとう。お休みなさい」
そう淡々と言ってのければ、素直な兄は、会話をぶちきられた事に気がつかず、素直に電話を切ってくれた。

気を落ち着けようとミルクティーを傾けるが、中身がもう空になってる。
まだ心臓の音が煩い。




目ざといミカドが、うきうきと小走りでティーポットを抱えてやってきた。
『幽さん♪ もう一杯いかがです?』

早速与えたPDAを、嬉しげに差し出す。
「うん、貰う」

お代わりを注いで貰いながら、じっと彼を見る。
昔から、人一倍独占欲が強い自覚があったが、尊敬する兄にまで向くとは思わなかった。
でも今は、例え心を許している家族でも、この居心地の良い空間を崩されるのが嫌だ。

というか、ミカドが作っているのだろう。
心底癒され、寛げる世界を。

(……本当に、不思議な幽霊だ。嫌、幽霊じゃないかもしれない……)

軽やかに炊事洗濯掃除をする首無し幽霊なんて、こんな不思議な存在、他に誰がいる?
ふと、いたずら心が芽生えた。

「どれがいいかな?」とパンフレットを独尊丸の前に並べてみたら、たしっと前足を出す。
それを引き抜いて広げ、「ミカド、今、俺達の引越し先が決まったみたい」と告げてみた。

『幽さぁん!!真面目にやってくださいぃぃぃぃぃぃぃ!?』

案の定、貰ったばかりのPDAを、つきつけてきたミカドの焦り具合が面白くて。
自然とまた笑みがこぼれた。

ありえない筈なのにね。



★☆★☆★

三話目終了です。ここまでお読みくださり、ありがとうございました(ぺこり)

昨日上げたものが全然気に入らず、結局大幅に書き直してしまいました。
(あまりに情報量が足りなさ過ぎて、読み返した自分が悶絶状態でした)
混乱させてしまいましてごめんなさい。

四話目からは、臨也が動きます。
話が急に動きますので、ご注意ください。

皆様に混乱させないように頑張りますが……、私自身、ほぼ二年ぶりの創作なので、まだ勘が戻りません。説明多くてまだるっこしいかも。