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ありえねぇ !! 3話目 後編

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「じゃ何か? 今までの一連の事件、元凶はてめぇの親父って事か?」
「そうだよ。でも私は偽善者じゃないからね。父のしでかした責任は、息子の私が償わなければなんて、悲観する気も罪悪感も持つ気もない。


で、ここからは私の推論だ。


【罪歌】は次の所有者に、杏里ちゃんを選んで寄生した。けれど、彼女は断固母のように【罪歌】の命令通り、【切り裂き魔】にならなかった。
先の騒動を静める為、静雄を欲した【罪歌の子供】を切り支配した以外、その刀を使用していない。

けれど今回、ミカド君に【罪歌】の力が使われた。

今現在、【罪歌】が杏里ちゃんか、それとも別な人物に寄生しているかは判らない。
池袋にいる【罪歌】が、杏里ちゃんの体内にあればいいんだ。いや、ミカド君の問題に関しては、色々難ありすぎるけど、とりあえずは私はいいと思ってる。

何故なら……もし今現在、彼女以外の別の誰が【罪歌】を持っているとしたら、判るだろう? 【罪歌】が寄生先を変えるって事は、寄生されていた主が死んだ場合だって事になるのだから」



★☆★☆★


居た堪れなくなった静雄は、帝人と二人で逃げるように、彼の家から飛び出した後、帝人の首を両腕に抱え、足早に来良総合病院を目指し、ひたすらに歩いた。

想像以上に重い話だった。
もし【園原杏里】が現在【罪歌】の所有者で無くなっていた場合は【死】んでいるなんて。


新羅なりにセルティに気を使い、一生懸命言葉を優しくオブラートに包んで匂わしたが、心優しい彼女にとって、ショックな事には変わらなくて。

『お前の父親のせいで……!! 森厳のせいで!! 森厳、殺す!! 殺してやる!! 私は、杏里ちゃんはぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 杏里ちゃんの幸せを返せ!! 杏里ちゃんに家族を返せ!! 杏里ちゃんを返せ!! ……私に杏里ちゃんを返してくれぇぇぇぇぇぇ!!』

どす黒い影を撒き散らし、錯乱し、新羅を文字通り人間サンドバック状態に殴り、蹴り飛ばし続け、その取り乱しようがあまりにも凄すぎて。

止める事はできなかった。
彼女の嘆きと怒りと悲しみと愛を受け止めるのは、恋人である新羅以外できなかったのだから。


★☆★☆★


《ねー静雄さん》
「ん?」

暫く無言でタバコをふかしていたら、帝人がのんびりと話しかけてきた。

《静雄さんが新羅さんと二人でご飯食べている時なんですが、セルティさんが教えてくれたんです。園原さんって、私と紀田君が、恋をしていた相手なんですって。親友と一人の女の子を取り合っての三角関係だったのに、とびきり仲良しで。セルティさん、遠くから見ていていつも微笑ましかったって。
不思議ですねぇ。こんな首だけになってしまった私にも、恋してた少女がいたなんて。しかもあの紀田くんと奪い合っていたなんて、想像もつきません。
ふふふ、私達、どんな学園メロドラマやってたんでしょうねぇ♪》

帝人なりに気を使って、振ってきた話なのだろう。
ほのぼのとした口調と、ほんのり色づいたほっぺ。
少年らしい可愛さに苦笑がこぼれ、今まで重苦しいだけだった空気が急速に変わり、ほっこりと心が休まりだす。

「ああ? 高校一年の分際で、何がメロドラマだ?」
《えへへへへへ♪》

くしゃくしゃと頭をかき撫でてやると、嬉しげに目を細める。
だが、甘い恋愛話とか、親友とか……。静雄の喧嘩三昧だった殺伐とした高校時代と比べ、聞いてて本気で羨ましくなってくる。

《ねえねえ静雄さん。静雄さんも園原さんをご存知なんですよねぇ? どんな感じの方だったんですか?》

「んー、そうだなぁ。確かお前からだけど、二人でクラス委員をやってたって聞いたな。めがねっ子で、髪は真っ黒でボブ……っつーか、今時珍しいおかっぱ。明らかに優等生って感じで、後胸がでかい」

にこにこしながら抱かれたままだった首が、急にぴょこぴょこと小さく跳ねだす。

《……もう静雄さんってば。最後の発言、セクハラになりますから、女の人の前じゃいっちゃ駄目ですよ?》

上目遣いで頬を膨らませ、睨まれたって怖くもなんともない。

「ははははは、判ってるって。でも実際羨ましいんだぜ。俺にはそんなワクワクする様な青春時代なんて無かったし」
《え? 静雄さん程カッコよければ、高校時代は絶対モテモテだと思ってました》
「ばーか。女なんか、マジで縁なかったぜ。考えても見ろ。俺といつもつるんでいたのがあの変人……新羅だぞ。それに臨也の野郎が事ある毎に嵌めやがるから、気がつきゃ毎日殴りあいだし》


《……ねえ、静雄さん。園原さんは絶対、生きてますよ……》


帝人の優しい声が、ふうわりと心に染みる。


《彼女は生きてるって、私、絶対に信じてます。絶対に、絶対に……、私は元の体に戻って、紀田君と一緒に、彼女と会うんです。絶対に……》


穏やかに、にっこりと微笑む。
だが……。

(ああ、そういえばこいつはいつも『そう』だった)

にこにこと、人前では極力笑みを絶やさない。
首だけの幽霊になったって、変質して今のままなら体に戻れないって聞いても、かつての自分が恋心を抱いた少女が失踪したと聞いても。


暢気に笑うんだ。

周りを心配させないように。

自分じゃどうにもならないから。

現状を嘆いたって、どうしょうもないから。

どれもこれも、ほぼ絶望に近い現状だっつーのに。




馬鹿が。
子供が大人を気遣ってどうすんだ?
余計こっちが悲しいだろう ?




「……、っと」


ちょっとイラッと来た瞬間、携帯の呼び出し音が鳴った。
ポケットから引っ張り出し、相手を確認すれば、新羅だった。

「ああお前どうした? セルティは大丈夫か?」
『うん、ショックがかなり大きかったみたいで、自室に今引きこもってしまってね。後でもう一度様子を見に行ってくるつもりだよ。それよりも今大丈夫? 君に言っておきたい事が三つあるのだけど』

「あー、何?」

『今から来良総合病院に行くのなら、明日にしたらどう? 一般の面会時間は19時半で終わりだからね。君はミカド君の身内でもなんでもないから、入れない確率の方が高い』

携帯のディスプレイで時刻を確認すれば、時刻は20時を越えていた。
昨日集中治療室を木っ端微塵にしてしまった事だし、ごり押しして入るのも躊躇われる。

「あー、ありがとよ。それで後二つは?」

『さっきの園原杏里ちゃんの件だけど、言い忘れていた事があって。実は切り裂き魔事件の直後、来良学園の先生とかけおちしている事になっているんだ。細かい事も真相も、私は知らない』
「おいおいおい、……」
(竜ヶ峰と三角関係じゃなかったのかよ? ったく、どんな悪女だ!?)

咄嗟に言葉を濁したのは、帝人の首を気遣っての事だ。
つい今しがたまで、【学園メロドラマですね♪】なんて、ほんのりほっぺたを赤くして、嬉しげに目を細めていた純朴少年に、『お前と紀田の二人、天秤かけられて捨てられたぞ』なんて、哀れすぎて言える訳がない。