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君は教えてくれない

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「・・・そんなことを言うと、後悔するのはあなたです」
おんなじことを、言う。
「・・・しない!」
ぶつかるように唇を合わせた。なんでそんなことを言うのかわからない。
「後悔なんか・・・するもんか」
なんで、拒否しないのだろう。後悔するというなら帝人の方じゃないか。男にキスされて押し倒されたなんて、彼の人生の汚点として申し分ないじゃないか。そしてそれをしたのは臨也だ。
帝人はもっと、臨也をせめていい。非難していい、罵っていいんだ。それなのに。
「折原、先生」
困ったように、笑う。最初からこの子はそんなふうに臨也を見た。
その顔はどんな顔なの。臨也はそれを聞きたくて聞きたくて、何度も言葉を飲み込んだ。
人にはいくつもの顔がある。家族に向ける顔、恋人限定の顔、どうでもいい人向け、その他大勢用。帝人のこの、困ったような笑顔は圧倒的に臨也に向けられることが多かった。どうしてこんな顔をするのか、その顔の意味はなんなのか。
「先生は、困りますよ」
まっすぐに見下ろした先で、帝人はもう一度視線をさまよわせる。
「困らないよ」
何を言われたって、覚悟ならもう出来ている。だから、本音を教えて欲しい。
「・・・先生は、先生だから、困るはずです」
「来年の3月までの話だろ」
「今はまだ先生です」
「臨時だから困らない」
「・・・屁理屈ばっかり」
困った人ですね、と帝人が、また困ったように笑う。誤魔化されて、流されてしまいそうなその表情に、臨也は表情をこわばらせた。先生だから後悔する、だなんて。
それは先生じゃなければいいってことなのか?


「・・・臨也さん」


つぶやくように、帝人が言う。
その華奢な手が伸びて、臨也のネクタイを掴んだ。
引かれる、刹那、微笑む口元。
惹かれる、瞬間、音さえ消える。
運命を感じていたか、と問われればNOと答える。多分帝人もそうは言わないだろう。
ただ、お互いに、お互いを引っ張る引力が同じだけ作用するから。だから、もしかして言葉を選ぶなら、臨也は運命を知っていたと答えるだろう。多分、帝人もそう言うだろう。分かる。
初めて帝人の方から重なったその唇は、それでもすぐに離れて。
帝人は笑う。やっぱり困ったように。
「・・・今はこれで、勘弁してくれませんか」
それからすぐに、顔を隠すようにして臨也の肩に押し付けて、息を吐いた。その帝人の細い肩に、手を、置きたいと思うのは。
やっぱり引力で、運命だと、柄にもなく臨也は信じたい。
「言葉は」
「困るでしょう、折原先生」
「ただの臨也なら困らないよ」
「・・・夏休み、の、ことは。嫌じゃなかったです」
「ちゃんと言って」
「嬉しかった」
準備室の、一つしか無い蛍光灯が音を立てる。もう学校を出なきゃいけない時間だ、窓の外もどっぷりと暗い。やっぱり帰りは送っていこうと、抱き寄せた温かさを逃さぬように腕に力を込めながら、臨也は思った。
「今、もう一回キスしたい」
好きだなんて言ってくれなくていい、もうわかってるから。幼子のように臨也の胸に擦り寄って、帝人がまた笑った。また、あの、困ったような顔なんだろうか、その顔がみたくて少し力を緩める。
「だめですよ、先生は生徒に手を出しちゃ」
たぶんこの顔は、照れ隠しなんだ、と、思うことにする。
きっとあながち、間違いじゃない。



「だから僕からします」



これからずっと、帝人にネクタイを引かれるたびに、おとなしく目を閉じるのだろうと、臨也は思う。
まずはそう、来年の4月になったら、どうやってこの子から愛の言葉を引きずり出そうか。
作品名:君は教えてくれない 作家名:夏野