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並盛亭の主人2

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午後2時半を過ぎ、ランチタイムのピークを超えた喫茶・軽食『並盛亭』。
がらがら、と扉を上げて店内に入ってきたのは、そろそろ顔馴染みの中に入れても良いかな、と思うほど足繁く通ってくる若い客。
何日かぶりに顔を見せた、近所の美大に通う男子学生…沢田綱吉だ。
「やあ、いらっしゃい」
中学生か高校生に間違えられそうな程に童顔で小柄だが、とても美味しそうに食事を食べてくれる客の一人なので、雲雀は彼をなかなか気に入っている。
「…こんにちは、雲雀さん」
その、挨拶をする綱吉の声に、覇気がない。
「そこの席、空いてるから座りなよ」
「ありがとうございます」
たまたま両手にデザートの載ったプレートを持っていたため、雲雀が顎でカウンターの奥を示すと、綱吉は頷いてちょこちょこと歩いて行く。
どこか気落ちしたその様子に違和感を抱いたものの、客を待たせるわけにも行かず、雲雀はそのまま接客に戻る。
だから、鞄を置いて椅子を引いて腰を下ろす綱吉の一連の動作がひどくもたついていたことに、彼は気づかなかった。





「…沢田綱吉、注文」
席に着いてから10分近く過ぎてもオーダーを決めかねている綱吉に業を煮やし、すっかり洗い物を片付けてしまった雲雀が声を掛ける。
「何も頼まないのに居座られたんじゃ、こっちも困るんだけど?」
「あ…す、すみません。そうですよね」
叱られてしまった綱吉ははっとして、辺りを見回す。
気がつけば店内にいる客は、綱吉を除けばティータイムを優雅に楽しんでいる常連の老紳士だけになっていた。
綱吉は慌ててメニューに目を戻し、落ち着かない様子でリストのあちこちに視線をさまよわせる。
「えっと、じゃあ親子丼のセット…は難しいか。ペペロンチーノ、もまだ難しかったよな…となると、日替わりランチのカレー…?」
「カレーならとっくに完売したよ。表の看板見て入らなかったの」
「うあ、見そびれてました……ど、どうしましょう…」
救いを求めるように見上げてこられて、雲雀はぴんと片眉を跳ね上げる。
「珍しく優柔不断だね。君が食べたい物を、僕が決めてどうするんだい」
店主は客の要望に合わせて料理を提供するのが仕事なのだから、客である綱吉が店主の雲雀に話題を振るのはちょっと変だろう。
しかも今日の綱吉は、選択の方法がおかしい。普段なら直感と空腹感の勧めるままに、ほぼ即決でオーダーしてくるのに。
「それに、さっきから『難しい』って言ってるけど、いったい何?」
苛立ちもあらわに腕組みをする雲雀に、綱吉が「実は…」と切り出す。
「ここ何日か、利き手の右手が使えなくなってて。筆記用具もですけど、箸とかフォークとかも、持ってること自体が難しくて」
「扱えないの?」
「はい」
だが、カウンターテーブルに置かれている綱吉の右手は、特に包帯を巻かれたり絆創膏が貼られたりしている様子もない。
「見たところ、怪我をしてる訳じゃなさそうだけど」
「怪我っていうか…うーん、何なんでしょうか、これ」
「いちいちはっきりしないね。……咬み殺しても良い?」
「ひぃっ!」
黒い切れ長の瞳を眇め、半ば脅してくるような雲雀におびえて、綱吉は全身を震わせてひっくり返った声を上げた。
「ちゃ、ちゃんと説明しますっ!しますから咬み殺さないでくださいぃっ!」
「じゃあさっさと話して」
「はい…」
あくまで上から目線で言う雲雀に、しょぼしょぼと首をすくめた綱吉が返答する。
(これじゃあ雲雀さんと俺って、俺様な先輩と逆らえない後輩みたい…複雑…)
おおよそ客と店主の間柄とは思えないやりとりを繰り広げている二人にも、老紳士は「おやまあ仲の良いことで」と穏やかな視線を向け、マイペースにティーカップを傾ける。





作品名:並盛亭の主人2 作家名:新澤やひろ