【東方】東方遊神記2
青蛙神もようやく食事を終え、早苗がお茶を淹れなおし、食後の一服。
「あぁ~食べた~満足満足」
諏訪子は自分のお腹をさすりながら心底幸せといった感じに言った。
「そりゃあご飯三杯もおかわりすりゃあ腹もいっぱいになるだろうよ」
「ご飯がお腹いっぱい食べられる以上の幸せはありませんよ、ふふっ」
お腹も満たされ、心地よいまったりタイム。三人は寛(くつろ)ぎモード全開だ。礼儀正しい早苗は姿勢を崩していないが。
しかし当の早苗本人を含め、三人は大事なことを忘れていることに気づいていない。仕方がないので、青蛙神は自分から聞くことにした。
「ところで・・・」
一つ軽く咳ばらいをし、
「今更言うのもなんなんじゃが、我はまだ、早苗のことについては聞いてないのじゃが・・・」「「「あっ・・・」」」綺麗にハモった(笑)。
「たっ、大変失礼いたしました!!」
早苗はバッ!!と立ち上がり、両手を前に揃えて姿勢を良くし、自己紹介をはじめた。「私の名前は東風谷 早苗(こちや さなえ)。この守矢神社で代々二柱に仕える風祝(かぜはふり)、東風谷一族の末裔です。因みに人間です(笑)」
「カゼハフリ?」
「祝(はふり)というのは神様に仕える者の総称です。仏教でいう僧のようなものですね。厳密にはちょっと違うんですけど。そして、私の一族は風雨と相性が良く、その関係で風を司る祝、風祝(かぜはふり)として代々この御二人に仕えてきたのです」
正式名称は祝部【はふりべ】といい、神社に関するあらゆる庶務雑務を担当する者たちを指す。その中で、○祝というように、前に特定の語がつく祝は、それぞれ専門の神事を行う特別な祝として、重要な役割をしめていた。その者たちの中でも、早苗のように特に高い能力を持ち、神との意志の共鳴などができる者などは、それこそ現人神として人でありながら崇められることもあった。
「早苗はすごいんだよ、人間なのに、、いろんな奇跡を起こすことができるんだから」
諏訪子がまるで自分のことであるかのように自慢げにフフンと鼻を鳴らしながら言った「それも、御二人の力があってこそです」
さすが守屋ファミリー唯一の良心、謙虚なものだ。こう見えてキレるととんでもなく恐ろしいのである(確認済み)。
「ふむ・・・現人神のぅ・・・」
自分が行動を共にしていた蝦蟇も、元は人間だったという。常人には理解できない力を持つ人間は、えてして人間という小さな枠では納まりきらないのかもしれない。
「さて・・・簡単ではあるけれど、これで全員の自己紹介もできたことだし、そろそろ青がどうやってこの幻想郷に来たか、詳しく話して頂戴」
いよいよ本題。
「・・・・・」
青蛙神は下をむいて、押し黙ってしまった。器用に正座している一本足の膝に置いた握り拳が震えている。
「辛いかもしれないけど、これはとても重要なことだからね。ゆっくりでいいから」
そう言いながら、神奈子は自分たちが幻想郷に来たばかりの頃を思い出していた。あの頃は新たな信仰心を集めることしか頭になく、また自分達の力をもってすれば容易いことだと驕っていた。結果、幻想郷の手痛い洗礼を受けたわけだが。
「皆さんは・・・こちらに来てどれくらい経つのですか?」
「そうさねぇ・・・今年でちょうど三年目に入るか・・・思えばあっという間だったね」「でもきっと顕界ではもっと長い時間が経っていると思うよ。向こうにいたころと時間の肌感覚が全然違うもん」
「私もそれは感じました」
幻想郷は顕界と違い、世界そのものが穏やかだ。だからといって停滞しているのではなく、あくまで世界がのんびりとしているといった感じか。
「ではご存知かもしれませんが、今の顕界の人間どもは、大半が神仏の存在を信じておりません」
そう・・・今の顕界人は、目先の欲望や心配事、焦燥感に囚われ、為政者は私腹を肥やすことに現を抜かし、民草を顧みず、かといって民草は世直しの声を上げるわけでもなく、こちらも自分の欲望を満たすことだけを考えている。
どちらも神仏などには興味がなく、中には漫画や小説、舞台や歌の中の一登場人物程度の認識しか持っていない輩も少なくない。頼みの綱の坊主や神官も、冠婚葬祭の諸行事に追われ、自分が生活していくために神仏に祈るような者も増えてきた。全部が全部そうとは言わないが、心の底から信じているのは敬虔なごく一部の人間だけだ。
「確かに・・・あたし達がこちらに来る決心をした時には、もうそういう兆候が強かったからね。もう顕界には主だった神や大妖はいないんじゃないかい?」
「えぇ・・・今は幽霊、特に悪霊が幅を利かせています。私がこの兆候を感じ始めたのが百年ほど前からです。その頃から人間は科学技術の発達にしか興味を示さなくなりました。そして各国間の技術競争や、資源の取り合いが戦に発展し、その波紋はすぐに全世界に広がり、そこかしこで大きな戦が毎日のように起こるようになりました」
青蛙神はそこで一呼吸置くと、目をつぶり・・・
「それから四十年ほど後、人間は自らの手で太陽神の力を創りだすことに成功します」
と、まるで呻くかのように言った。
作品名:【東方】東方遊神記2 作家名:マルナ・シアス