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"Chrysalis" 【Spark5:新刊サンプル2】

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 ジョーカーはジョーカーで、何もアリスを無理に罪人に仕立て上げたいわけではない。アリスに告げても決して信用されないだろうし今後告げるつもりもさらさらないものの、ジョーカーはアリスを気に入っている。だからアリスは牢獄とは関わらない方がいいと思っているのだ。彼女を気に入っているからこそこちらに引き込みたがっているもう一人のジョーカーとは違って。
 だがエースの主張をそのまま受け入れるのは何となくジョーカーの癪に障った。意趣返しとばかりにエースの矛盾点を突くことにする。その一瞬、ふと、相当に参っている様子だったアリスの表情が微かにちらついた。

「そういう割には、随分とお嬢ちゃんを脅かしたみたいじゃねえか。『まだ罪人じゃない』相手を追い詰めてどうすんだよ」
「あれは……」

 エースは遠くを見る目をして僅かに顔を上げた。中空をぼんやりと眺める視線からは何の感情も読み取れない。何らかの言葉を探しているらしいことはジョーカーにも分かる。だから黙って続きを待つことにしたのだ。
 だが結局、エースは途中で諦めたように首を左右に振った。力ない笑みを浮かべて述懐する。

「どうすればいいのか分からなくなっただけだよ。隠し続ければいいのか、全部曝け出せばいいのか」
「で、思い切れずに中途半端か。らしくねえな、エース」
「俺らしさなんて俺にだって分からないさ」

 抑揚も何もない簡素な台詞は、しかしジョーカーを沈黙させるに足る鋭さを備えていた。ジョーカーが言葉を失っている間にも、エースは掴みどころのない曖昧な表情を浮かべたままぽつりと呟く。

「俺はアリスを守りたいのかな。傷つけたいのかな」
「……それこそ、俺が知るかよ」

 やっとのことでジョーカーが言葉にできたのはたったそれだけだった。腹立ち紛れに足元に転がる玩具を蹴飛ばす。ブリキ製の人形は耳障りな音を立てて壁にぶつかり、あらぬ方向へと首を歪ませた。

(略)