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さむいひに。(+α)

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「おいふざけんなじじい」
「なんですか恋人に向かってその口の利き方!」
「確かに俺は海に行きてぇとは言ったけどよ、なんでまた半年経ってからその願いを叶えようとするんだお前は」
「いいじゃないですか2月に海だって!」
「寒いだろ!!寒いの嫌いな俺への嫌がらせかよ!」
「いいえ愛情です。ケフィアでなく」
「ケフィア関係ねえ!!」
「あーもう文句が多いですね!私のケフィアぶっかけますよ?」
「下ネタ言うなあああぁぁ!!!」

薄い色の金髪の恋人が叫ぶ。それに合わせたかのように向こうの岸壁にざっぱーんと波が打ちつけられた。頬をほんのり赤くした彼は俯いてどこか落ち着かない。折角年末の某イベントも終わって、暮れ正月だの身の回りの行事を終えて、無事恋人の誕生日を祝った際に『今度日帰り旅行にでも行きましょうか』と告げて彼を喜ばせ、今に至る。多分、まだ寒い時期に出掛けたのがいけなかったのかもしれない。

「うぅ・・・さみー」
「・・・そういえば、ギルベルト君は、冬場は出不精でしたね」
「あー・・・・、うん。結構しんどい」
「じゃあこうしてあげます!!」

我ながら妙なテンションでぎゅう、と目の前の自分より背の高い細身の体に抱きつく。うわ、と聞こえて、でも一瞬後には背中に腕が回される感触。嬉しくてふふふと笑って見上げるとてれてれとほんのり赤い顔が見えた。

「珍しいな、お前が抱きついてくれるなんて」
「嫌ですか?」
「むしろすげえ嬉しい。もっと力入れてもいいぜ?」
「折れても知りませんよ」

わー、とかきゃー、とかケセセセセとか。いちゃいちゃと楽しんでいたバチが当たったのだろうか。足元が陰り、二人で見上げたらそれはそれは大きな波が目前に迫っていた。ああ、潮臭い。




「菊ー、さみー」
「おや、風邪でもひきました?頭を濡れたまま放っておくからですよ」

ずぶ濡れになって互いを一頻り笑ったあと近所の宿に駆け込んだ。アポなしで行ったにも関わらず快く入れてくれて、早速風呂に入ったのが先ほど。卓で暖かいお茶を啜っていると恋人がきゅう、と後ろから抱きついてくる。寒いというけれど自分の体感温度では特段寒いとは思わない。けれど腹に回されたこれもそれなりに暖かい腕はどういうわけかカタカタと震えている。ああ、納得して宥めるように笑んでやる。

「寒いの、苦手ですもんね。こっちいらっしゃい」

正座を崩して後ろにいた彼を足の間に招く。抱え込むように卓と私で挟んで抱き締めてやると、緊張していたのが少しだけほっとしたような顔になる。この人は寒いのが本当に苦手なようで、それが20年前までいた地に起因するのか、それとも幼い頃からの食にも困った生活からなのか、それはわからない。
ついでとばかりにその辺に先ほどこの人が放った毛布が落ちていたから拾って肩にかけてやる。

「まだ寒いですか?」
「ん、平気。お前あったけぇな」

くったりと頭を私の肩口に預け、だらしない姿勢で私の飲みかけのお茶を飲む。渇いてしまった少し癖のあるプラチナブロンドからは私と同じシャンプーの匂いがして思わず顔を埋めた。埋めた頭からぷぷぷ、と喉を鳴らして笑う声が聞こえた。

「どうしたんだよ、今日は妙にくっつき虫だな」
「ええ、ギルベルト君にくっついてないと死んじゃう症候群ですから」
「そか。ならもっとくっつけよ」
「言われずとも。お手洗いまでついていきますよ」
「ははっ、マジかよー」
「勿論。なんなら飲んであげましょうか?あ、大きいのはちょっと無理かもしれな」
「いらねえよ!!そんな趣味はねえ!」
「ふふ、じゃあギルベルト君がもよおさないうちに寝ましょうか」

毛布が掛かった体を抱き上げて布団まで運ぶ。・・・・別に私だってそれくらいの力はありますよ。2つ並んで敷いてある布団の片方に彼を下ろして、もう1つの布団に座ると彼が急に眉間に皺を寄せた。

「おや、不ッ細工な顔」
「うっせえ。・・・夜中に俺にくっついてないと死んじゃう症候群の発作が出たらどうすんだよ」
「ふふふ、素直じゃないですねえ。きちんとおっしゃい」
「一緒に寝ろよ、ばか!寒いだろうが」

毛布を思い切りばふん、と投げつけられてようやく顔からそれを剥ぐと同時に衝撃がきて思わず後ろに倒れる。彼にのしかかられたと気付いたのは彼の真っ赤な顔が目の前に来たときだった。

「随分積極的ですね、今日は」
「お前が意地悪言うからだろうが、わくわくすんな」
「ふふ、生憎私も今日はただ貴方に添い寝してもらう気分なんです」

ゴロゴロと布団に潜り込めば懐くように彼がスリスリ寄って来る。殊更愛おしくなって白金の頭を抱え込む。

それからいくらか経ち、恋人が寝てもまだ眠れなくて静かになった部屋に波の音と自分の心臓の音が良く響いた。
案外怯えているのは私のほうなのかもしれない。




作品名:さむいひに。(+α) 作家名:桂 樹