さむいひに。(+α)
陶磁器とプラチナ。
「あー、うらやましいですねー」
「なにが」
「結婚20周年ですって?」
「あー・・・うん、いいだろ?」
へら、と嬉しそうに笑うのは恋人。おかしい話だと思うでしょう。この人はボケ属性が強すぎて私が彼とその弟の2度目の同居の始まりを結婚と呼んでも全くツッこんではくれない。もしかして本気でそのつもりだったらどうしよう。私は結構おおっぴらに遊ばれているだけだったらどうしよう。
「ギルベルト君!」
「うお、なんだよ?」
がッ、座卓の向かいに座る恋人の手を握る。驚いた顔の彼は少し身を引いた。
「結婚してください!!」
「・・・へ?」
「私も貴方と結婚記念日祝ったりしたいです!遊ばれてるなんて嫌です!」
「お、俺がいつ遊びだなんて言ったんだよ!!お前が一番好きに決まってんだろ!」
「だってさっき否定しなかったじゃないですか!」
「お前が茶化して言ったんだろうが。お、俺はずっと前から・・・お前と結婚したかったけど、な」
「私なんて、貴方とお付き合いを始めた頃から結婚してる気分でしたよ?」
「はは、じゃあ俺らのほうがずっと長いな」
「ええ、プラチナ軽く2個はいってますね。20周年なんてまだ磁器婚ですから」
「今に見てろよ。俺とルッツだって軽くプラチナ10個はいくんだからな」
「その頃だって私と貴方はもっと長い年数一緒にいることになるでしょう?」
「・・・・そうだな」
いつものような豪快な笑い方でなく、くす、とでも言うかのような彼の微笑みは珍しい、と思う。プラチナあと10個まで不安がないといえば嘘になるのはお互い様だろう。でもそれまで一緒にいたいと思う、切実に。
「まあ何が言いたいのかと言うと、おめでとうございます。今日の夕飯は肉じゃがですね」
「おう、ありがとな」
そんな9月の終わりの日。
作品名:さむいひに。(+α) 作家名:桂 樹