全部帰り道に拾う
アイスが溶けて、一段目のチョコ・ミントのグロテスクな青色が吹雪の白い腕を汚した。
「――、」
路傍には蝉と夏とサッカーボールの蔭しかない。
「……汚れてるよ。吹雪」
「そうみたい」
気配が近くて、それでも練習後であるはずの照美からはやっぱり、香水か何かのにおいしかしないので吹雪はなんだか泣きそうになる。
照美にもっと綻びがあればよかった。吹雪の傲慢さが、照美に付け入る隙があればよかった。美しいものを美しいものだと伝えてやって、安心していいのだよ、と、言えるだけのただの強さが。
チョコ・ミントのアイスが溶けていき、照美は少しだけ困惑した顔で、自棄みたいにアイスクリームに近付いて二段目のアイスにかじりつく吹雪を見ている。吹雪は照美を抱きしめてもやれない。それをしたあとで、彼らが救われるなんて思ってもいない。傲慢さが誰かを助けるなんて、そんなのは嘘だ。吹雪はそれを照美に言ってやりたかったのだけれど、照美のあまりにも凛とした横顔が、吹雪の手を、体温を、しのびこもうとする心を拒絶するように思えて身動きが取れない。
「……おいしかった。とっても」
「うん」
「今度はこれ頼むね。僕」
「そうだね」
吹雪の意志の薄い笑顔に対して、照美はやっぱり、なんだか高貴げに微笑んでいる。安穏さを続けるふたりのシーンはついぞ決裂することなく、今までの歩みのように、だらだらとした友情とも元チームメイトとも言えない関係が続く。吹雪が囁いたのは、たぶんずっと二人の間でたった一つの真実でありつづける一つの指針だ。
「『僕はただ、君とお茶を飲むのが好きなだけだよ』」
「……なに?吹雪、何か言った?」
「ううん、何も。それよりこれ、食べちゃわないとね」
「腕を洗う方が先じゃないか」
「大丈夫!後で」
決してクロスしない道があった。だけれど美しく並んだ平行線が、ささくれだった気もちを鎮める瞬間もあるのだと、たしかに少年たちは知っていた。道にはきれいなものも汚いものも、美しい少女も目をそむけたくなるような死人も、プライドだって優しさだって憎悪だって転がっている。いかにも思春期らしい色をした、ビビッドな色あいのアイスクリームを食いながら彼らはおそるおそる道をたどる。
拾いながらも進んでいる。平和ボケをしそうになった頭を、揺さぶりながら生きている。網がしなって蝉が鳴いた。未来の自分が破片を拾うこの帰路を、名付ける方法を吹雪は知らない。
10.1004