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恋は盲目、とはよく言ったものだ

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プロローグ




いつから好きだった?と聞かれれば覚えていないと答えるだろう。
だって、気がついたときにはもう好きになっていたのだから。
始めてあったのは自分がまだ小学校低学年の頃。
その当時、自分でも男勝りだったなと思う。髪は短く、スカートよりもズボンを好んで。
そしてよく切れやすかった。ただ切れるのならまだ手のつけようがあったのかもしれない。
けれど、己は切れるとそこに『力』が加わるのだ。しかも大人が太刀打ちできないような強大な。
だから、大人も子供も怖がって側に近寄らなかった。
必然的に独りで遊んでいることが多かった自分。その日も独りで公園のブランコに乗っていたそんなとき、

「隣良いか?」

「は?」

夕日を背に、微笑んできた見たこともない少年に自分はあろう事か眉を寄せ、間抜けな返事をしてしまった。
あのときに戻れるのなら、あの台詞をなかったことにしてしまいたい。できるならそのときの自分の表情も一緒に抹消したい。

「別に」

「そうか」

少年は大人びた笑いをこぼすと、隣のブランコに座り漕ぐわけでもなく、ぎぃぎぃとブランコを揺らしながらぼぉっと遠くを眺めていた。
その少年の見ている先が不意に気になった。少年の見ているだろうと思われる先を見てみても、遊具があるだけでそこまで見つめる必要もない。
一体何を見ているのだろう。視線をそらすことなく、ずっとその一点を見つめている。だから声をかけてしまったのかもしれない。

「一体何を見てるん、ですか?」

だ、と続けようとした言葉はそう言えば年上だったのではないか、という考えに打ち消され訂正した。

「ん?」

少年は優しく微笑み返してくれる。知らず知らずのうちに頬が赤くなるのが分かった。なんなんだろうこの動悸は。

「どうかしたか?」

「え、えっと・・・。その、何を見ているのかな、と思って」

自分らしくない、と思う。もじもじと話すなんて。

「んーいや、見てたって言うか考え事だな」

「考え事?」

「あぁ、だからごめんな?気になってたんだろ、さっきからこっち見てたから」

「べ、別にっ」

見ていたことを知られて恥ずかしくてたまらない。いったい何なんだこの感情は!

「・・・そろそろ暗くなってきたなぁ」

「そう、ですね・・・」

先ほどまでは赤くあたりを照らしていた夕日はもう殆ど隠れていて、あたりを闇が包み込み始めてきた。
少年はブランコから立ち上がると、すっと自分に手をさしのべてくる。
少年の意図が分からずに、小首をかしげていると、ブランコの鎖を持っていた手をつかまれた。
そして引っ張られる。別に対して強い力というわけでもなかったのに、自分はブランコから立ち上がり、彼に引っ張られる形で歩き出していた。

「一緒に帰ろう静」

「えっ」

少年はにかっと笑う。静はただ呆然と少年の笑顔に見取れていた。

「俺はトムって言うんだ!お前さんの家の隣に引っ越してきた。これからよろしくな!」

この少年は自分が何者かを知っていた。小学校でも知らぬ者はいない、あの近所でならなおさら。
誰もが恐れて近づかない己に、少年は自ら近づいてきてくれた。接してくれた。
涙が、溢れそうになる。それを悟られたくなくて、下を向きながらこくりと頷いた。

「うん・・・よろしく」

これが初めての、恋。