Eternal White
「でもさ、ヴォルフ。お前って小さいころと、こないだと2回も遭難しただろう? それでも嫌にならないのか」
命の危険すら覚えたはずの、体験。そんな目に遭ってもなお、冬が好きだというのだろうか。
それを問えば、当然だと頷かれる。
「ぼくが不注意すぎただけだ。もっと早く……決断すべきだった」
つい最近の遭難では、彼の部隊は雪崩に巻き込まれている。幸い、全員無事に戻ることが出来たが、それだって一歩間違えばどうなったか分からない。
「……おれは、嫌いになったよ」
大事な人が辛い目に遭ったというだけで、そんな理論的な判断なんて出来ようはずがない。
ふてくされたおれを宥めるように、白い手が頬を撫でる。
「そう言うな、ユーリ。あの厳しさこそ、ぼくは好ましいと思っているんだ。慢心するなと、いつも言われてる気がする」
生まれも育ちも不自由がなく、きっさこれからも恵まれた生を歩む。そういうポジションで生まれたこの元プリンスは、どこぞの貴族よろしく崇高な義務を自覚しているらしい。
日本人には分からない感覚。だけど、魔王なら知らなくてはならないだろう、その世界。
強張った頬を、むにむにと揉まれ、我に返る。
「くすぐったいよ、ヴォルフラム」
「またユーリが変なことを考えているから悪いんだ」
「変ってなんだよ」
ちょっとむくれて言えば、拗ねるなと笑われる。
「……ユーリは、ずっとユーリのままでいいんだ。何かあったらあれこれ考えずに飛び出してしまう、そんな王でいて欲しい。お前は、ぼくらにとって夏の王なんだからな」
太陽の眩しさと、温かさを纏った、そんな王。だから、冬の厳しさも、潔さもいらない。そういう役目は、ぼくらが負う。
そう告げた唇が、人の反論を奪う。
冬から春へ芽吹く季節。彼とおれとの間には、そんなやさしい季節がある。
「おれの暴走をお前が止めるから、ちょうどいいってやつ?」
「……よく分からないぞ」
日本人的喩えは、残念ながら伝わらないらしい。
でも、きっと、かれとおれとでちょうどいいバランスなのは間違いない。
「ユーリは、夏の空で輝く、真っ白なシーツみたいな王だ」
「…気持ちよさそうな王様像だな」
ともすれば、洗剤のCMにも出れそうだ。
また、唇が触れる。
たわいもない会話と、いつもの行為。眞魔国の変わらない日々は、こうして時を紡いでいく。
作品名:Eternal White 作家名:架白ぐら