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こわれもの(サンプル)

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サンシャイン60から程近い、東池袋中央公園。通常休日であれば池袋に訪れる人々の憩いの場であるその公園は、現在奇妙な男女の三人組が手元の地図を覗き込み、顔を見合わせていた。
「静雄、ヴァローナ、これどう思うよ」
「‥今日中は、無理が無いっすか?」
「先輩の意見を肯定します。私達の平均移動速度から計算すると、この距離は本日勤務時間中に全てを回り切るのは不可能かと思われます」
「だよなぁ」
 ドレッドヘアの男、田中トムは髪を掻き上げながら溜息を吐いた。借金の取り立て人であるトムは現在、ボディーガードを兼ねた助手であるバーテン服の男、平和島静雄と新人のロシア人であるヴァローナと行動を共にしている。しかし、トム一行が広げている本日の取り立て予定場所を記した地図上の赤い印は、一つ所に固まっていれば問題は無かったのだが、難儀な事に池袋を中心に放射状に広がっていた。
―――月末近いから、経理の連中に徴収率上げてくれって泣き付かれてんだよなぁ‥
 トムが滞納者のリストを広げ思案していると、地図を覗き込んでいた静雄が神妙な顔で呟いた。
「…これ、俺の所為で昨日の分が終わんなかったからですよね」
「否定します。本日の臨時追加分が無ければ、問題ありませんでした」
「そうそう、不動産部の連中が突然追加依頼してくんのが悪かったんだからよ。それにしても、この頃踏み倒す奴が多くて困るぜ…社長に言って本当に取り立て要員を増員して貰わなきゃ駄目だな」
「…」
 完全には納得がいかず苦い顔をしている静雄を言い包め、トムは滞納者リストの束を両手で広げていく。運が悪い事に、その中には暴力団との繋がりをチラつかせるような一癖ある人物も数名おり、一人ずつ別れて取り立てに行くのはリスクが高い様に思えた。
「手分けして回るにも、ヴァローナはまだ日本に慣れてねぇし、静雄はキレると周りが見え無くなるしなぁ」

―――もう一人静雄と相性が良い交渉役がいればいいんだが…

 トムが“首無しライダーをバイトで雇う”と云う、奇天烈な発想を社長に提案するか本気で考え始めていると、静雄が突然腰掛けていたベンチから立ち上がり、まだ火を付けたばかりの煙草を携帯灰皿の中に放り込んだ。
「‥すんません、ちょっと待っててもらっていいっすか」
「んっ?あぁ‥ほどほどにな」
「了解しました、待機します」
 機嫌が悪くなりかけている時の独特な低い声の調子に、トムは紙束の隙間から向い側を覗き込んだ。彼がゆっくりと歩みを進めるその先には案の定、ガラの悪い青年達が屯っている。
 トムは溜息を吐きながら天を仰ぐと、できるならその青年達が危機察知能力に優れ、無知無謀でない事を祈った。
作品名:こわれもの(サンプル) 作家名:伊達