人を呪わば穴二つ
不意に電子音が響き、膠着した空気を振るわせた。青葉の携帯だ。数秒で鳴り止んだので、メールだろう。青葉が視線で伺うと、正臣が勧めた。
「どうぞ?」
「……どうも」
青葉は片方のポケットから携帯を引っ張り出した。画面を確認し、表情を変えずにすぐに返信した。再び携帯をポケットにしまう。
「……ブルースクウェアのお仲間か?」
自身も携帯を手にしながら、正臣が尋ねた。
「いいえ、部活の友達です」
「部活?」
正臣が方眉を上げた。
「一応美術部なんですよ、俺」
「……似合わねぇな」
正臣が、興味無さそうに呟く。しかし、青葉はにやりと口の端を上げた。
「俺が美術部に入ったのにはね、理由があるんですよ」
青葉の雰囲気が変わったことに気付いて、正臣が訝しむ。
「ご存知かも知れませんけど、来良学園……合併前は来神高校って言って、折原臨也の母校なんです。美術の教師が古株でしてね、面白い話が色々聞けますよ」
正臣は、緩く首を振って視線を落とした。
「……俺はもう辞めちまったけどよ、先輩として一応忠告しといてやるよ」
かつて、上京したばかりの帝人に伝えた言葉を、正臣は再び口にする。結局、その忠告は功を成さなかった。
「折原臨也には関わるな」
今回も、無駄なものになるだろう。青葉が、にやりと口の端を上げた。
「……先輩、折原臨也を憎んでるって言ってましたよね?」
「あぁ。お前と共倒れしねぇかなって思うぐらいにな」
正臣は、冷たい口振りで言った。青葉が、俯いて苦笑を零す。
「酷いなぁ。……ねぇ先輩、俺達と共同戦線張りませんか?」
青葉の提案に、正臣はあからさまに顔を顰めた。
「……何言ってんだ、お前」
「俺達の当面の目的は、折原臨也を潰すことです。先輩にとっては、願ったり叶ったりなんじゃないですか? 昔から、敵の敵は味方って言うじゃないですか」
雄弁に語る青葉に、正臣はゆっくりと首を振った。
「悪いけど、俺はもうそういうのには興味ねぇよ」
「怖いんですか?」
青葉が、挑発的に問いかける。
「……やりたきゃ勝手にやれ。そこに帝人を巻き込むな」
取り付く島も無く切って払う正臣に、青葉は肩を竦めて苦笑を返した。
「それは残念ですね。きっと、お互いに有意義だと思うんですけど」
正臣は前傾して頬杖を付き、じっと青葉を見つめた。
「……お前さ、自分で分からねぇの?」
「何がですか?」
正臣の問いかけに、青葉が首を傾げた。
「……お前の笑い方、あいつにそっくりだよ」