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人を呪わば穴二つ

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「……なーに遊んでるんだか」
 臨也は苦笑を浮かべた。ICレコーダーの再生が終わり、室内はパソコンの稼動音とキーボードを叩く音だけになる。
「相変わらず趣味が良いわね」
 パソコンから目を離さないまま、波江が険のある声で言った。指先は、素早くキーボードを叩いている。
「子供の成長は早いからねぇ、ちゃんと見守っておかないと」
 臨也は背もたれに身を預け、悠々と言い放つ。波江は不快そうな表情を浮かべた、臨也を一瞥した。
「……なんか機嫌悪くない?」
「貴方が外をほっつき歩いてたから、忙しいのよ」
 臨也が出かけている間に、新しい仕事が舞い込んだらしい。
「だったら、波江があいつらの相手してくれれば良かったのに……」
 臨也は、疲れを滲ませて呟いた。仕事を手伝おうという気は無いらしい。腹の上で手を組み、壁面に嵌め込まれたガラスの外を眺めている。
「あの子達は貴方がいいって言ってたじゃない」
「そりゃ、俺が困るのが面白いんだよ」
 臨也はくるりと椅子を回して、波江に向き直った。
「貴方の悪趣味に付き合ってくれたんだから、むしろ感謝しなさい」
「酷いなぁ」
 臨也は、軽く肩を竦める。すると、波江は不意に手を止め、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「でも、そう言う割には、ちゃっかりデザートまで食べてきたんでしょ?」
 臨也が、ぴくりと眉を動かす。
「……なんで知ってるの?」
「あの子達がわざわざメールで教えてくれたわ、ほら」
 波江は、携帯を開いて臨也に見せた。臨也が目を向けると、メールの添付画像らしい写真が表示されている。ピースサインの九瑠璃と舞流、その間にパフェが写っている。そのさらに向こうに、ピントがずれているものの自分が写っているのを見つけて、臨也は思わず顔を顰めた。
「あら、その顔だと気付いて無かったのね」
 波江はそれだけ言い捨てると、すぐにパソコンに向かって作業を再開した。臨也は、僅かに勝ち誇ったような横顔を一瞥し、椅子を正面に戻した。
「全く、今日はどいつもこいつも……」
 セルティに変な体勢で拘束されていたせいで、背筋に違和感が残っている。臨也は頬杖を突くと、それきり無言で思索に耽った。






「そういえばさ、今日、首無しライダーに会ったよ」
 新宿へ向かう電車に揺られながら、正臣が思い出したように言った。
「本当?」
 沙樹が小首を傾げた。電車はそこそこ混んでいる。席にあぶれた二人は、扉の傍で向かい合って立っていた。
「うん。拝んどいた」
「拝むんだ」
 沙樹はくすりと笑った。
「人間じゃないって噂だから、なんかご利益あるかなーと思って」
 正臣が首を傾げると、沙樹も同じように首を傾げた。若いカップルに、周囲から好奇と妬みの視線が送られているが、二人は気付かない。
「そう、それで、何を拝んだの?」
 沙樹がそう尋ねると、正臣は不意に窓の外へ視線を向けた。言葉は、呟くように落とされた。
「俺の友達の味方で居てくださいって」
 電車は規則正しく揺れながら、二人を池袋から引き離す。
「……本当に、馬鹿だねぇ」
 沙樹は、窓に映った正臣の顔を見つめながら、そっとその手を握った。


作品名:人を呪わば穴二つ 作家名:窓子