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人を呪わば穴二つ

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「ちょっと、騒ぐなら他所でやってちょうだい」
 押し問答を続ける臨也と双子に、波江が冷たい声を浴びせた。
「…………分かった。用意して来るから、お前ら先に出てろ」
 結局、臨也が渋々折れた。双子が、ぱっと明るい表情を浮かべる。
「やったあ!」
「嬉(やったね)」
 二人は、ひとしきり喜びを分かち合うと、競い合うように玄関に向かった。その後姿を目で追いながら、臨也は溜め息を零す。
「全く……」
「別にいいじゃない。お寿司ぐらい奢ってあげても、バチは当たらないわよ」
 波江が気のない風情で言った。
「寿司は別にいいんだけどさ、あいつらの相手、めちゃくちゃ疲れるんだよね」
 臨也は嘆息し、椅子にかけていたコートに袖を通した。
「そりゃ、貴方の妹なんだから、当たり前でしょ」
「……どういう意味かな?」
 臨也が、聞き咎めて方眉を上げた。しかし、波江は臨也の顔を見もしない。指先が軽快にキーボードを叩いている。
「そういえば、さっきの子、竜ヶ峰帝人と友達なんじゃなかったかしら? バレたら困るんじゃないの?」
 波江がふと尋ねると、臨也が誇らしげに笑った。
「それは大丈夫。帝人君には釘を刺しておいたから」
「あら、そう」
 波江の相槌は素っ気無いが、臨也は気にせず話し続ける。同時に、急ぎの用件が無いかパソコンのメールをチェックする。
「実際、そっちがメインなんだよね。罪歌を何とか出来ないかと思ってさ。身体的に遠ざけるのは前に失敗しちゃったから、精神的に溝を掘っておこうかと思って、帝人君に色々吹き込んでやったんだ」
 臨也は気になる用件を見つけたのか、立ったまま素早くキーボードを叩いた。
「…………ちょっと予想外の方向に転がったんだけどね」
 いくらかマウスを操作しながら、臨也が声のトーンを落として呟いた。波江が不審に思って顔を上げる。臨也は苦笑を浮かべ、淡々と話して聞かせた。
「園原家の事件の真相を、俺は知らない。でも、いつかは帝人君に知らせてみようとは思ってたし、そのために、少しずつネットに情報を流していた。……もちろん、ダラーズでも複数アカウントを取って」
「それで、結局どうなったの?」
 冗長な臨也の話し振りに、波江が痺れを切らした。
「……消されてたんだよ」
「?」
「その手の話で園原杏里に矛先が向かうような書き込みは、ダラーズ内で全部消されてた。それどころか、辺境のオカルト系のサイトの掲示板まで……。ハッキングなんて、いつの間に覚えたんだろうねぇ」
「それって、そんなにおかしなこと?」
 波江は、不思議そうに首を傾げた。臨也が軽く首を振る。
「ネットから情報を隠蔽なんて、絶対に不可能だよ。特に、帝人君みたくどっぷりネットに浸かってる子なら、身に沁みて分かってると思うんだけどねぇ」
「その子のことが好きなんじゃない?」
「だからって、……っと、これ以上は止めておこう」
 珍しく、臨也が自分から会話を切った。微妙な表情を浮かべる臨也に、波江が煩わしそうに言った。
「なぁに、その顔」
「いやいや、貴重なご意見どうも」
 慇懃な態度を取る臨也に、波江は気分を害したように軽く眉を寄せる。
 臨也は、波江がかつて弟の殺人未遂を隠蔽していたことをようやく思い出した。
「イザ兄、はーやーくー!」
「急(はやく)」
 待ちくたびれた双子が、臨也を呼びに戻ってきた。二人してぴょこりと顔を出す。
「はいはい、今行くから」
 臨也が所帯染みた返事を返すと、双子は再び玄関へ向かった。
「あぁ、嫌だな。面倒臭い……」
 二人の姿が消えると、臨也が小声で零した。
「愚痴愚痴五月蝿いわよ。どうせ、碌に相手もしないくせに」
「そうなんだけどさぁ」
 臨也は性懲りも無く嘆息し、ようやく諦めてパソコンの電源を落とした。


作品名:人を呪わば穴二つ 作家名:窓子