池袋は夜の七時
「いえ、貴方じゃあるまえし、こんなことまで私が仕組んだと思ってるんですか?店が壊されて、私に何の得があるというんです」
言わんとすることはもっともだが、この先要求されるだろうことは臨也にもわかっている。それを見越してだとすれば、疑わずにはいられない。
「臨也さん、お仕事ですよ。あの猛獣を飼いならして来なさい。壊された物はそっちに請求しますけど、かまいませんよね?」
「冗談はやめてもらえませんか」
「それで今回はチャラにします。頼りにしてますよ、真心第一の情報屋さん」
臨也は舌打ちし、勢いよく四木の膝から下りて、暴れている静雄の元へ向かう。その背中に四木の言葉が聞こえる。
「あの嫉妬丸出しの視線見ました?少なくとも貴方の思惑通りにはなっているようですね」
「どこがだよ」
まだグラスとテーブルがひっくり返されただけで破壊とまではいっていない現場で、臨也はナイフを取り出す。そしてそのまま、いつものように本気で刺す勢いで静雄に向かっていった。どうせ静雄の身体は傷一つ付きはしないのだから。
「てめぇ、何しに来た」
案の定、臨也のナイフは身体一つで押し留められる。自分の中には遠慮なく勃起して入ってくるくせに、ずいぶんじゃないか。
臨也は言葉を発するのも面倒になり、静雄の口を強引にふさいだ。舌を絡ませ、くちゅっと唾液の音が静かなフロアに聞こえてくる。
バーテン服の男がいきなり暴れだし、更にその男にナイフを刺しに男が現れたと思えば、次にはもうキスをしている。わけのわからない状況に、周りに居たものは成り行きを見守る以外に何もできない。
長いキスを終え、二人の間に透明の糸が引く。
「ノミ蟲、今日はてめえと遊んでる暇ねえんだよ。仕事中だ」
「仕事ねぇ。それで嫉妬に任せて店壊しまくるつもり?」
臨也の言葉に静雄の血管がまた浮き上がる。
「てめぇ、今すぐ殺してやる」
「ああ、嫉妬のあまり俺を殺して自分だけの物にしたいってそういうわけだ。シズちゃんがヤンデレ属性だとは知らなかったなあ」
「……よーくわかった。てめぇを今からただのメス犬にしてやる」
静雄に痛いほどの力で腕を掴まれ、臨也は連れて行かれるままになった。これ以上暴れられて店の改装費を払うよりは安いものだ。