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我が愛しのキーラー・ポリグラフ

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 一見、武骨さを感じさせないほっそりとした臨也の手。しかし、よく見れば硬く筋張っていて確かに大人の男なのだと思わせる、帝人のそれよりも大きな手。
 帝人は、その手がいつも冷たいことを知っている。夏場に触られると、ひんやりして気持ち良いことや、冬場は霜焼けやあかぎれになりやすいらしく、面倒臭がりつつもハンドクリームを塗ってきちんとケアしていること、そして暖を求めて、温かな帝人の手に触れるのを好ましく思っていることも。
「帝人君の手は温かいよねぇ。子ども体温だ」
 冷水にずっと晒していたのかと思うほどひんやりした手を温めようと、帝人の手を握る臨也は、機嫌がよさそうに言った。
 臨也は、帝人が平均的な高校生男子のそれに比べて幼さと温かみを残した自分の手に、若干のコンプレックスを持っていることを気づいているのだろう。そこには、どこか揶揄めいた響きがある。
 ふにふにと猫の肉球に触れるようにしながら、帝人の手から熱を奪い、戯れの言葉を吐き出す臨也。
 しかし、帝人は、別段それを不快とは思わない。もっとも、からかいの言葉には顔をしかめたり、反論したりするが。少なくとも、臨也がその手で帝人に触れるということにのみ関していえば、むしろ喜ばしいと感じるくらいだった。
 なぜなら、帝人は臨也の手が好きだから。
 ひんやりと冷たい温度を、あるいは、帝人の体温を奪った後の生温さを、少しかさつく手の甲を、関節のコリコリとした感触を、一つ一つの掌線を、指の付け根部分に薄らと肉づくその柔らかさを、角張った指一本一本の細さと長さを、ナイフを使うせいなのか少し硬くなった指の腹を、案外無造作に切り揃えられた爪の形とツルツルとした手触りを――――臨也の手の一切合切全てを、帝人は好ましく思っている。
 だから、未だ男らしさなどまるで感じさせず、赤ちゃんの手をそのまま大きくしたような、男としては甚だ不満のある手を臨也に預けるのだ。臨也の手に触れたい。ただその一心で。
 なぜなら――、
「帝人君ってさ、案外、手フェチだよねぇ」
 そう告げるや、クツクツと喉の奥で笑うのが聞こえて、帝人は眉を寄せる。
 それを見咎めたのか、「跡がつくと取れなくなるよ」と言って、臨也は帝人の手を離して皺の刻まれた眉間へ人差し指をやり、その指の腹を無遠慮にグリグリと押し付けた。
「それを言うなら、臨也さんの方がよっぽどでしょう」
 人の手に散々触れ、熱を奪っておきながら何を言うのだろうか。
 皺を丹念に伸ばしながら押さえつけてくる臨也の手を、ペシッと払いのけながら、帝人は呆れた風な声で返した。
 臨也は、払われたことを気にした風もなく、そうであるのが当然とでもいうように帝人の手を握り直す。
 そして、ニンマリと口の端を持ち上げてみせた。まるで、帝人の考えなどお見通だとでも言うように。
「そうかな? でも、手が好きでしょう?」
「・・・・・・否定はしません」
「じゃあ、大好きなんだね」
 否定しないだけで「好き」から「大好き」に格上げされてしまった。
 再び眉を寄せたくなったが、眉間をグリグリされたくないので、必死にこらえて代わりに業とらしく溜息をついてやる。
 そんな帝人に気をよくしたかのように、臨也は言葉を続ける。
「ダラーズの創始者様は手フェチ。新しい情報だ」
「二束三文にもなりませんね」
 バッサリ袈裟切り。切り捨て御免。そんな情報、誰が買うというのか。
 しかし、帝人の素っ気無けない返答くらいで一々悄気る臨也ではなかった。
「うーん、三文って今のお金に換算すると大体60円だよね? じゃあ、その100倍の値段で売って、君には情報提供料として原価である60円をあげよう」
「どんな理屈ですか・・・・・・」
「うーん。商売人の理屈? まぁ、俺のは趣味でやってるようなもんだけど」
「情報の価値を見誤ると、いつか痛い目みますよ。というか、みてください」
「うわ、酷いなー。でも結局、手フェチってことを否定しなかったし、――本当にそうなんだ?」
 へー! と業とらしく大きい感嘆の声をあげながら、見下したような視線が帝人をさした。どういうわけか、貼り付けたような笑みには嗜虐さが加わる。ついでに、獰猛さも。
 どうしておかしなスイッチが入ったのか。何が切っ掛けだ。帝人には臨也の心の動きや思考回路がさっぱり理解できない。しかし帝人にとって、あまり歓迎できないことが起こるのは分かった。
 案の定、帝人の手を握りしめる臨也のそれに力がこもる。
「ねぇ。今、触ってるよ。どう、嬉しい?」
「いいえ、全然」
 触れるというよりは、握り潰すといった勢いだ。嬉しいわけがない。
 帝人に被虐趣味はないのだ。
 もっとも、臨也と付き合うようになってから、その認識に若干綻びが見える気もするが、きっと気のせいだろう。気のせいだ。
「嘘つき」
 愉悦交じりの声が帝人の直接耳に吹き込まれ鼓膜を震わせる。クスクスと心底おかしげな笑い声と呼気がくすぐったく、ぞわぞわする。
(・・・・・・嘘つきは、臨也さんの方だ)
 帝人は、舌打ちでもしたい気分で内心呟きながら、握り締められた手を見下ろした。
 臨也に比べて小さな自分の手が彼のそれに包まれている。遠慮のない締め付け。いつもつけているシルバーリングが帝人の指の骨に当たって立てる、ゴリッという嫌な音と、冷たくツルツルした感触と痛み。
 帝人は、ギリギリと強まる痛みに耐えながら、臨也の手が与えるそれらに集中した。
 ――まるで追いすがるかのように、絶対放さないとでもいうような力の強さ。力を込めすぎただけではない僅かな手の震え。帝人の手の熱を奪っただけではない手の熱さ。緊張と少しの興奮からか、僅かに発汗してしっとり湿った手の平。
 臨也の手から、分かること。それをたった一つでもいいから知ろうと神経をやる。
 そして、先ほどまでの会話の流れと併せて、そこから帝人が汲みとれたこと。
 それは――、
「――僕は、別にフェチなわけじゃなくて、臨也さんの手だから好きなんですよ」
 真っ直ぐ。視線は臨也の瞳を逸らさずに。真摯な態度で。一言一言を噛み締めるようにして。
 雰囲気が雰囲気なら、甘い睦言に聞こえただろう。しかし、帝人の口から出たものは、まるで駄々っ子を慰め宥めるかのような響きを持っていた。
 その瞬間、臨也の手からスッと力が抜けた。
「いきなり、何? ・・・・・・もしかして、機嫌でもとってるつもり?」
 怪訝そうな様子で帝人を覗きこんでくる。眼や声には僅かに不快そうな色が。
「そんなつもりは、全くありませんよ。誤解をといているだけです」
 不機嫌そうな様子。それでも、骨が軋むほどに握られていた握り方が、幾分やわらかなものに変わっており、帝人は自分が間違ったことを言ったわけではないのだろうと検討づけた。