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かなや@金谷
かなや@金谷
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無薬旅行(いらずとび)【池袋大戦発行】

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カランと大きな硝子のポットの中で氷が揺れた。
「あの…… 臨也さん」
 新宿、夕方。ビルの最上階にあるカフェはそれなりに混んでいた。帝人一人であれば入ることのないその店は臨也のお気に入りだという。ギャラリーを思わせる内装の店は、店内に無数の絵や写真、そして美術系の本が所狭しと置かれている。カフェというよりは、雑然とした書斎と言った雰囲気で、わざと古めのフローリングが懐かしさも演出し心落ち着く空間となっている。
 屋根裏部屋を思わせるフロアには、新宿の街を一望できる大きな窓硝子と、空から惜しみなく陽光を差し込ませる明かり取りのようなガラス窓が天井で輝いていた。
 臨也のお気に入りは大きなベランダに作られたオープンテラスで、ガラスで四方を囲まれた空間は温室のようで、その小さな空間には隙間無く観葉植物が置かれている。その緑に埋もれるように二席のテーブルが置かれている。
 とても新宿と思えない南国のような空間で、帝人は切り出した。
「なんだい? 帝人君」
 硝子のポットはカランと揺れる音を立てて、冷えた琥珀色の液体が小さなグラスに注がれていく。コトンと木製の小さなトレイの上に置けば、ポットの水滴が木目に吸い込まれていった。
「僕達いつ、えっちするんですか?」
「えっ? どういうことかな?」
 コトンと置いたはずのグラスは目測を誤りトレイの縁を掠めてなんとか着地した。たゆんと揺れた液体がテーブルに零れたが、伸びた細い腕がテーブルを拭いていく。
 表情を崩さない臨也にしては珍しく呆然とした表情のままで、首を傾げていた。
「あっ、えっ……、せっ……」
「それは解ってるから、解ってるから帝人君。君は本当に俺を驚かすよね」
 言葉の意味が通じていないと思ったのか、言い換えた帝人の言葉を臨也は遮った。オープンテラスには自分達しか居らず、なおかつ扉で中から隔離されている環境が役に立った。そういう作りだからこそ臨也はこの店を贔屓にしている。
「そうなんですか? で、いつにしますか?」
「いつってねぇ……」
 まったく会話の流れなど意に介せずに、帝人は自分の都合だけを語っている。独善的な帝人の程度に、臨也は何故時期に拘るのかを考えていた。
 金魚鉢ほどある硝子の器に盛られたパフェを食べる手を止めて、視線だけをこちらに向けている。
「僕的には、今月中が望ましいんですよ」
 パフェの器より一周りだけ小さいが、それでも大きなグラスには半分ほど緑色の液体が揺れている。カランカランと中の氷が音を奏で、中に入れられた白い寒天がたゆたゆと揺れている。白い指先が縁に飾られたフルーツを一つ摘むと、シャコシャコと音を立てて咀嚼している。
「なに、その望ましいって」
 期日があるということは、なんらかの約束があるということだ。自らの初体験を帝人が賭けに使うとも思えないし、いや、帝人がそうで無くとも使いそうな人物は他に居る。彼の後輩の黒沼青葉の幼い笑顔を臨也は重い浮かべ、表情を変えない代わりに美味しそうにパフェを食べる顔を眺めた。
「今月中だと、付き合い始めてからのプラン通りなんですよ」
 計画という言葉に、臨也はどこか安心した。自分の与り知れないところで、自分を賭けたの対象にされるのは黒幕体質の臨也には耐え難いモノだ。
 賭をするのならば親の立場だ。賭け事で一番損がないのは親だ、それ以外をやる気は臨也にはない。まったく関与しない状況下で、対象となる事柄を観察することに意義はあるが、自らが対象となっては親になることは出来ない。
「プラン? ちょっといいかな、その計画には三人目は必要なの?」
 交際するのは初めてだと帝人言っていた。池袋一つ巡るのにタウンガイドを購入するような初心で知識欲のある少年は、やはり交際にもマニュアル本を用意していた。臨也と帝人の交際は、世間的にはそのマニュアルから外れる組み合わせだが、そこは池袋様々な教本があるのだと帝人は臨也に語ったことがある。具体的なことは聞かなかったが、その教本の存在を教えた者には覚えがあった。
「えっ、青葉君がですか? イレギュラーですけど」
「あっ、俺のことはお構いなく、どうぞ続けて下さい」
 メロンソーダーを口から離して帝人が答えれば、急に会話に自分の名が出たことに驚いたのか青葉がパフェのスプーンを咥えながら手を振っている。
 もはや、嫌がらせだろうというレベルでこの帝人の後輩、黒沼青葉はデートに同行している。初めは後を付けてきただけなのだが、バレてからは堂々と同行するようになっていた。初めは嫌がっていた帝人も、今では受け入れてしまったのか、既に三人でデートするモノという認識になっている。
「なんか慣れちゃったし、別に支障はないですから、ねぇ」
「はい、先輩」
 二人とも高校生にはとても見えない幼い顔をつきあわせ頷きあっている。鑑賞するには大変可愛らしいが、片方は可愛いとは言えない性格をしている。
 臨也としても自身の計画を円滑にするためと、個人的な感情と欲求からの交際であるから、この三人目の出現には頭を抱えていた。
 しかし、そのあり得ない、予想しがたい行動は、人間観察をライフワークにしている者にとっては喜ばしく楽しみでもあるから厄介だ。
「俺は君達のそういうところがたまらなく愛しいよ」
「僕も臨也さんの何でも楽しんでしまうところも好きですよ。ね、青葉君」
 流石にそれには同意は出来ないのか、青葉は帝人には微笑み返すが、鋭い視線が臨也を睨み付けている。そして、少し溶けかかったパフェに再び口をつけた。
 揺れる幅広の赤いチェックのネクタイを気にしながら、青葉はスプーンを動かしている。白い角襟のブラウスとネクタイは制服のような印象を受け覗きたくもないが、テーブルの下ではネクタイと同じ赤いチェックスカートと黒のハイソックスが控えている。
 青葉が臨也と帝人のデートに同行するようになったのは、彼が二人の出へとを尾行していたことから始まっている。
 その頃から変装のつもりか、来良学園の女子制服を着てついて回っていたのだ。後から知ったことだが、臨也の双子の妹から借りたと知った時には頭を抱えたくなった。あの妹達にどう話をつけて借りたのだろうか、まさか尾行する相手が実の兄だとは、いや青葉のことだ解っていて借りたのだろう。
 そして、尾行がばれ帝人の一言により同行することになってからも、何故か青葉は女装して現れた。ここまですると、本心では気に入っているのではないかと疑いたくなる。
 確かに、青葉の女装は似合っていた。なんら違和感もなく、今の制服風の私服も、来良の女子制服も着こなしていた。その姿に臨也は思わず。
『明日からそれ着て登校すればどうだい?』
 と、嫌味の一つでも投げつけたくなった。だが、青葉も青葉で顔色一つ変えずにこう言った。
『それも良いかもしれませんね。今のうちしか着れませんから』
 女装をしろと言われて受け入れる男も男だが、青葉の言葉には包み隠してはいるが臨也の年齢に対しての嫌味を含んでいる。