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お前にしがみ付きたい

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お前と別れるとき、をよく想像する。



たとえば喫茶店。しばらくメールの返事が届かなくて、俺は変だなと首をかしげて一日に何度も新着メールの問い合わせ(部活のときにでも口で聞けばいいのに)。
お前はいきなり俺を呼び出して、俺は何も気づかずに、久しぶりにお前と二人でいられることにはしゃいですごく上機嫌でお前と向き合って座る。
お前が指定するのはいつも喫茶店。お前はファミレスは嫌い。
お前はミルクテイーをホットで注文して、俺はレモンティーをアイスでと言って、ケーキをどうするかしばらく悩んでいつものように「以上で」と終わらせる。お前はそれを黙って見ている。
俺はお前を見て、いつも見ているはずなのにこうして向かい合うとなんだか恥ずかしいなと思って、少し照れて笑ってしまう。不思議なことに、俺はお前を見るたびにお前を好きになる。お前はそんな俺を、黙って見ている。
注文したものが運ばれてくるまで、俺たちはどちらも口をきかない。
俺はお前がこんなに近くにいることに満足してしまって、指先をこすり合わせながらそわそわと店のあちこちを見回す。
お前はそんな俺を覚えておこうというように、じっと俺のほうを見ている。
ミルクティーとレモンティーはすぐに来る。ウエイトレスが伝票を置いて去るまでお前は動かない。俺はストローの袋をちぎってそれを小さく折りたたみ、それからストローをさす。気分によってはガムシロップも入れる。今日はどうしようか。思っていると、お前が口を開く。
「仁王くん」
ああ、その声、好きだ。
思いながら俺は少し笑う。俺、お前の全部が好きだ。何も嫌いなところがない。
「うん、あ、そうだ、最近お前にメール送っても返事ないんじゃが、どうかした?お前の携帯調子悪い?それとも俺の方かな」
カラカラとストローで氷をかきまわす。レモンティーは色が明るくていい。
俺は柳生を見る。俺はまだ何にも気づいていない。柳生の髪、柳生の顔、柳生の眼鏡、柳生の唇の形、服の着方、それは全部俺を幸せにさせる。俺は目を細める。柳生は眼鏡を押し上げる。
「仁王くん、お話があるのですが」
「うん、何?」
柳生のもったいぶった話し方が好き。
ねえ柳生、
「あ、その話終わったら、次俺な」
「・・・では、あなたから先にどうぞ」
「ええの?」
「はい」
「うん、そんなら」
ねえ柳生、
「次の日曜、開いとる?」
作品名:お前にしがみ付きたい 作家名:もりなが