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平泉の悲喜交交

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―――先輩、義経どころか源平の歴史もよく知らなかったのに、どうして平泉が岩手県って知ってるんですか?―――

けれどそんな心の中のツッコミすらも当然望美には届かず、彼の心はどこまでも残心の孤独に佇むのであった。


おまけ〜その後の望美〜
ずっと気になっていたことが分かってスッキリした望美は、「明日になったらこの事泰衡さんに教えてあげようっと♪」等と鼻歌交じりで自室へ戻ろうとしていた。が、その時外の方が何やら騒がしいのに気が付いて、何事だろうかと玄関まで出て見る。と、そこに今一番会いたかった人の姿を発見した。
「あれ、泰衡さん?!」
「神子殿か」
「どうしたんですか?何か用事ですか?」
嬉しそうに駆け寄る望美に、泰衡はあくまでも表情を変えずに応じる。
「ああ。だが、それも済んだのでな、もう帰るところだ」
「え、もう行っちゃうんですか?せっかく来たんですから、お茶くらい飲んで行きませんか?」
「生憎だが、これでも多忙の身だ。それはまたの機会にさせて頂こう」
「そうなんですか……わかりました、お仕事頑張ってくださいね。あ、でもあんまり無理したら駄目ですよ!夜はちゃんと寝てくださいね?」
「……善処はしよう。では、失礼する」
そう言って外套を翻し去りかけた泰衡は、しかし途中でぴたりと立ち止まると、つかつかと足早に望美の前まで戻って来た。
「?? どうかしましたか?」
「―――手を出せ」
「手?ええと、こうですか?」
訳の分からないまま、泰衡の言う通り手を差し出した望美。その掌に置かれたのは、小さな花束――黄色や白の素朴な花で作ってある――だった。
「視察の途中で立ち寄った村の子供が、何故か俺に持って来た。だが、俺には不釣合いな物だ。あなたが持っているのが似合いだろうと思ったのだ。強く可憐な、野の花だから……な」
そう言ってほんの一瞬優しげに緩んだ眼差しを向けると、驚きと嬉しさで目を丸くして声も出せずにいる望美を置いて今度こそ立ち去っていった。
その背中と、手の上の小さな花束を見ながら、望美は思っていた。

「ドライフラワーの作り方って、譲君知ってるかな?」

譲の苦悩は、現代へ帰るその日まで続く事になりそうだった。合掌。
作品名:平泉の悲喜交交 作家名:藤屋千代子