わるいおうさま
「もしもし。ああん? なんだそりゃ! 俺は知らねえぜ、そんなファミリー! あ? 誰だって、てめえ、誰に聞いてやがんだ。俺はサンジだ! てめえらの雇ったヒットマンに殺されかけた(ここでゾロは肩をすくめた)サンジだよ! ……ああそうさ。いいか、てめえの雇った坊やは、今俺が預かってる。素っ裸にひん剥いて縛り上げてクローゼットに放り込んであるぜ。いいか、てめえら、今から2時間以内にここに来て、俺に土下座しやがれ! わかったか! さもなくば人質の命はねえぞ。……アア!? しらばっくれてんじゃねえぞ。ははァ、ちびっ子一人の命なんざ関係ねえってか。よし、じゃあてめえらが来なけりゃ俺が、いいか、俺が! てめえのとこに行くぜ。当然、てめえのオカマみてえな腕の2,3本はへし折ってやる! その腕を全部、てめえのボスのケツの穴に突っ込んでやるからな! わかったか!」
受話器を叩きつけ、サンジは相変わらず素っ裸だったけれど、部屋の扉を開け放し、廊下に顔を突き出してこう言った。
「どうもすいません! ご迷惑お掛けしまして。今からここにマフィアがやって来ますからね! ご婦人方、くれぐれもお気をつけて!」
キャアキャアと既に小さなホテルは悲鳴に溢れていたのだけれど、それから2人は待ち時間を潰すために清潔な真っ白のシーツの上でセックスをした。
***
再びヒットマンをクローゼットに突っ込み、サンジは窓から自分の命を狙っているとかいう連中の姿を見下ろして、ニヤニヤと笑った。
「……しかしまさか、奴らも俺とお前が一緒にいるとは思わなかったろうな? へへ、おもしれえじゃねえか」
「おもしれえか」
「ああ、おもしろいね。奴ら、俺とお前、どっちが突っ込まれてると思ってんだろう?」
サンジは指先で銃を弄び、いかにも愉快げに身体を揺らしている。ホテルにいるからと言って、誰もがセックスをするわけじゃないのだが、そのあたりは露ほども頭にないらしい。
俯き、キッチンから持ち出してきた銃に次々と弾を込めていく。その指先は、白く、器用だ。ゾロの背中を掻く指だ。つむじは、窓からの光に当たってぴかぴかと光っている。くわえ煙草の唇が少し突き出しているのは、何かに夢中になっているときの癖だ。
「You're my sunshine, my only sunshine……」
口ずさんでいる穏やかな歌に、ゾロは聞き覚えがある。
ゾロは、ゆっくりと目を閉じた。瞼の裏にまで光が届いている。視界は、赤くぼんやりと燃えている。
いいなァ、とゾロは思った。
ゾロはサンジが好きだ。昼間にどこぞの誰かをなぶり殺し、夜にはそいつから奪った王冠を被り、ゾロにキスをねだってくる。悪人とは、こういうやつのことを言うのだ。
最後のショットガンに弾を込め終わり、サンジはようやく立ち上がりカーテンを引いた。じゃら、という音と共に一層眩しさが増す。ゾロは、王様然として立つ悪いやつを、まるで日光浴中のイグアナのように目を細めて見つめる。
「てめえらァ! 土下座する気になったか!」
するかアホとか、どう考えても死ぬのはてめえだとか、なかなか物騒な声が聞こえてくる。それを聞いて、ますますサンジは笑う。にっと口の端と端とをを引っ張り上げて、子供のように。
「逆らうやつは、死刑!」
わっと叫んで、サンジはためらいなく引き金を引いた。
「お前、かわいいよな」
「知ってる」
銃を乱射しながら、サンジはゾロにキスをねだる。