ペルソナ2 周防兄弟SSまとめ
臨死大変
「あんたさあ。いい加減にしろよ」
ぶっきらぼうにタオルと一緒に言葉を投げてよこす弟に克哉は小さく唸るだけで何も言い返せずにタオルに顔を埋めた。
何子どもみたいにしてんだよ、と悪態をつきそうになるのをぐっとこらえて達哉は壁にもたれかかる。
「死の体験ってのはどんな感じだ?」
「……嫌味を言わなくてもいいじゃないか…」
ちらりとタオルから顔を覗かせて文句を言う兄に弟はわざとらしく盛大な溜息を吐く。それにまたうう、と唸って顔を隠れるように埋めてしまう。
「…体験しないに越した事はないだろう」
「でも、体験したんだろ?」
「そうだけれど」
「幽体離脱みたいなものなのか?」
「全然違う。もっと遠くで、蝶――フィレモンだったか?あいつのいた空間にいて、見ていることも出来ないんだ。ただ空間に投げ出されて、何もないのに自分の姿は確認出来て、どうしようもなくて苦しい場所だ」
「あそこがか?」
眉を寄せて兄を見るが兄は相変わらずタオルに顔を埋めてもごもごとしていた。
「あそこで呼び戻されるまで、何もないから考えてしまうんだ。このまま僕が死んでしまったら、達哉はどうなってしまうのだろうか、とか。まだ全然、達哉の手伝いも僕は出来てないし、いや僕一人いない方がもしかしたらいいのかもしれないけど、でもやっぱり僕は達哉の側にいたいし、足手まといにはなってないつもりだけどそれは僕一人が勝手に思ってるだけで本当は達哉には凄く足手まといだったりするんじゃないだろうか、とか」
「…あんたって、本当にバカだな」
「バカとは何だバカとは!僕は真剣に考えていたんだぞ!」
「いつもそんなこと考えてたのかよ。それで?もうやめるのか?そうすればもう死の体験なんてしなくて済むしな」
吐き捨てるように弟はまくしたてると腰を落とした。兄はタオルで一度顔をこすってからそのタオルを弟に向かって投げる。
「…今更逃げるくらいならあの時から僕は加わっていない」
「だったらそれでいいだろう。あんたの決めたことに俺だってもう何もいうつもりはないからな。あんたを今更足手まとい呼ばわりする気もない。あんたが足手まといなのは最初からわかっていたことだしな。それはここまで連れてきた俺の責任だ。だから俺はあんたを死なせたりはしない」
ぶっきらぼうに、優しい弟に克哉は顔を上げてパアっと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「達哉…!」
「……一回死ね」
「っ…達哉、僕のことが嫌いなのか!?」
「バカは一回死ななきゃ治らないだろうが!」
叫んで達哉は立ち上がり、またタオルを兄に向かって今度は全力で顔目掛けて投げつける。それは見事に狙ったところに命中して克哉は鼻先を押さえた。
「…達哉…酷い……」
非難の声を上げる兄を見ようともせず達哉はふん、と息を吐いて背を向けて立ち去った。
克哉はタオルに頬擦りをしてそのふかふかの感触と、もう死の体験をすることがないかもしれないという淡い期待に頬を緩めながら目を閉じた。
柔らかいタオルから、太陽の匂いがした。
罪達哉&罰克哉
作品名:ペルソナ2 周防兄弟SSまとめ 作家名:なつ