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GUNSLINGER  BOYⅠ

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いつも君は




「臨也さん」

少年は車に寄りかかっているファー付きコートを着た青年に呼びかけた。

「任務完了しました」

その手には華奢な少年の倍は体重がありそうな男が抱えられていた。
男は既に絶命しているらしく、ピクリとも動かない。
少年自身の服にもいたるところに血が付着している。

臨也と呼ばれた青年はそんな少年の異様な風体を見てもさして驚いた様子も見せずに言う。

「そう、じゃ、ソレはそこら辺にでも置いといて。すぐに回収班が来るらしいから」
「はい」

壁にもたれかけさせるように少年は男の死体を降ろした。
臨也は血で真っ赤に染まっている少年の手をポケットから取り出したハンカチで包み込むようにふいてやった。

「怪我は?」
「全部相手の血です。僕の体に損傷はありません」
「そっか。じゃ、とっとと引き上げようか帝人くん」
「はい。臨也さん」

臨也が微笑みながら言うと、帝人もわずかに笑った。



臨也はハンドルを握りながら助手席に座る帝人に「ねえ、さっきのだけど」と軽い口調で話しかける。

「何ですか?」
「何ですかじゃないでしょ。明らかにオーバーキルっぽかったけど、
 あんまり無駄な動きをしない君らしくないね」
「・・・・・だって、」

帝人は不快そうに唇を尖らせた。

「あの人、臨也さんに銃向けたんです。許せません。」

赤信号で車が止まる。
臨也は片手でくしゃりと帝人の髪を撫でた。
帝人は嬉しそうに目を閉じた。


帝人は、社会福祉公社によって創られた義体だ。
脳を除く体の8割は強力な人工物に置き換えられており、身体能力は通常の人間のそれをはるかに上回る。


社会福祉公社は障害者支援を目的として名称の通り社会福祉の事業を行っている。しかし・・それの表向きの事業とは別に、反政府勢力への諜報や暗殺など非合法活動を行う裏面を持っている。
進んだ医療技術を背景に義体技術を開発し、10代前後の少年少女集めて義体化して暗殺や保安警備に利用している。その一方で、義体で培った成果を民生用義肢などにフィードバックし、実績を上げていることで世間の目を欺いているのだ。

義体化には事故や犯罪による瀕死の重傷者や、重篤な障害者などが利用され、義体になる以前の名前や経歴等は全て抹消される。
帝人もまたそういった子供の一人であり、人間であったころの記憶は消されている。

また義体には運用に不都合な感情を持たないよう、条件付けと呼ばれる洗脳も行われている。洗脳には薬物・暗示・電気的刺激などが用いられ、これは条件付けと呼ばれている。内容は主に、「担当官(上司)、および社会福祉公社に忠実であること」「殺人に抵抗を持たないこと」「目的達成のためには自己犠牲を厭わないこと」などであり、戦闘員にとって必要なことばかりだ。

義体には一体に一人ずつ担当官がつき、そのコンビはフラテッロ(兄弟)と呼ばれる。
条件付けの頻度や強さは担当官の裁量にたくされているが、臨也の帝人に対する条件付けは他のフラテッロからするとかなりゆるいものだ。
必要不可欠なものであるにもかかわらず、臨也は条件付けというものが嫌いだった。
条件付けを強化すると、感情喪失・記憶障害・薬物依存・短命化などの副作用が生じる。つまりはどんどん人間から遠ざかっていくのだ。

やむなく条件付けをする度に、帝人は帝人でなくなっていく。
それが臨也には苦痛だった。

「・・臨也さん。信号青ですよ。何ぼけっとしてるんですか」
「あ、ホントだ」
「まったく・・いくら僕でも自損事故までは防げませんよ?」

できるかぎり条件付けを避けているため、帝人は忠実であるはずの担当官に向かって平気で毒舌を吐く。
他の義体ではありえないことだ。

ゆるい条件付けでも上からはたまにたしなめられる程度で済んでいるのは、
臨也と帝人のフラテッロが公社において常にトップの成績を誇っているからだ。
元々の性格なのだろう。帝人はゆるい条件付けでも真面目で、緊急時でも冷静でとりみだすことはほとんど無い。
臨也が危険な目に遭ったり負傷させられた時以外、は。

前方に公社の拠点である巨大な修道院が見えてきた。


「さて、帰ったらその血みどろの体を洗わなくちゃね。本当に怪我は無い?」
「ありませんよ。一撃も喰らった覚えありませんし」
「じゃ、一緒にお風呂入ろっか。俺が洗ってあげ・・」「寝言は寝て言って下さい」


作品名:GUNSLINGER  BOYⅠ 作家名:net