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弟によるささやかな願望

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ロイさんが初めてラブレターなるものを受け取った日。その日の兄さんの怒り狂いようは思い出したくもありません……。バレンタインデーとかで、ロイさんの家の前を女の子たちが取り囲んだその時は……血の雨が降らなかったのが奇跡のようで。あああ、なんでボクはこんな兄とこんな幼馴染みを持つなんて人生にぶち当たったんだろう?よっぽど前世の行いが悪かったのかなあ……。
ああ、過去の回想なんかで気を遠くしている場合じゃないな。うん、問題は……問題は……ええと、たくさんあってどっから突っ込み入れていいのかわからないけど、とりあえず、毎朝毎朝毎朝毎朝っ!!お互いの首筋にキスマークなんか付けるのやめてくれませんかっ!ねえ、兄さんロイさんっ!!イカガワシイことこの上ない!ボクは…ボクは…ものすっごく恥ずかしいんだけどっ!!兄さんとロイさんと一緒に登校するのなんてもう何の拷問ですかってくらいの苦行なんだけどさああああっ!!
ぶつくさぶつくさ言ってれば、身だしなみを整えた兄さんとロイさんは「さー、アルフォンス、ガッコ行くかー」なんて軽やかに階段下りていくし「トリシャさん、行ってまいります」なんてロイさんは如才なく母さんに挨拶して靴を履くし。

……貧乏くじ、引いてるのボクだけ?

ちょっと腐った気分のボクは兄さんたちから3歩下がって通学路を歩いていく。高い位置で一つに結んでいる兄さんの金の髪が風になびく。さらさらのロイさんの黒髪も揺られて……、見たくないけど確認してしまう。その襟もとにからちらちら見えるマーキングの跡が。じゃあ、そんな所を注視しなければいいじゃん、とか言うセリフ、言って後悔しないでよ?それだけじゃないんだからね、この二人は。

……こーこーせい男子がですね、手を繋いで学校行くのってどー思います?

目線、どこに向ければボクの精神安定を図れるんだろう?だけど今更文句を言っても仕方がない。文句を言ったところで「仲良きことは良いことなのだろう?」とか「こーでもしとかねえとロイを誘惑してくる鬱陶しい奴ら増える一方だろ?牽制だ牽制」とか「不純同性交友などは一切しておらんよ?文句はないだろう?」とか言って胸張るし。「そーそー、そーゆーことすんのはもっと大人になってからなー。オレ達きよらかさんだからー」とかとかとかとかとかあああああもう、朝から疲れることおびただしい。せめて、大学だけは兄さんたちと違うところに進学しよう。

マーキングに牽制に、そんなもの目の前でされるから気になるんだ。視界に入らなきゃ問題ないんだ。そう新たなる決意を固めた16の夏。……ボクだけは健全な精神とともに健全な青春を過ごして。それでもって当たり前の温かい幸せな家庭を築くんだからね!!

とか宣言したら「オレとロイの家庭だって健全であったかい幸せな家庭の予定だぜ?」ときょとんとした顔を向けられた。

切っても切れない血縁関係、それを嘆いても仕方がない。だけどボクは……だけどいつか……この人たちとは無関係になりたい。



‐ 終 ‐
作品名:弟によるささやかな願望 作家名:ノリヲ