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雨の夜に

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 あの人が帰ってくるまで、出かけたこと自体気がついてなかった。いつの間に抜け出したんだ。おしろいとヤニと酒の匂い。戻りに出くわして思わず顔をしかめたのは、その匂いに咽そうな気がしたから、多分それだけだ。

「山崎、おめえ何か知ってんだろぃ」
「いや知らないです」
言い終わるか終わらないかのうちに即答だ。こっちを見て答えない。だめなやつ。嘘のつき方がわかってない。買い出しに行くんで、と目を逸らしたまま逃げていこうとしたのをひっ捕まえる。こういう時は焦って問いただしちゃいけない。じわじわと炙り出すように、逃げ場がなくなるように、外側から始めないと。かわいそうな鼠はあっという間に追い詰められてしまった。相手は街の芸者だった。
「こんなの聞き出すのなんて、無粋じゃないですか」
「減るもんじゃなし」
「これ以上は知らないですよ」
本当に知ってるか知らないかはどうでもよかった。どんな女か、気になった。
「じゃあ調べてきな。店と芸者の名前」
「そんな」
「弱味になりそうなことは全部知っとかなきゃいけねえんだよ」
「できないですよ」
そこで初めて山崎は顔を上げて、そんな卑怯なことはできないです、と振り絞るようにつけたした。
「やれ。俺はどうしても知りたくなったから、やれ。やらないって返事は聞かねえ」
この時どんな顔をしていたんだろう。必死に合わせていた視線を、山崎が抗しきれずに落としてしまうぐらい、恐ろしい顔をしていたんだろうか。むしろ楽しい気分だったのに。その女、どんな顔をしているんだろうって考えるのはたいそう楽しいじゃねえかい、そう言いたかった。蒸すような夕方で、木を斬り倒したいほどに蝉がせわしなく鳴いていた。
「おとなしくして長生きすりゃいいのによ」
喉元に張り付くようなタイをむしるようにして外して、廊下に叩きつけて自室に戻った。
作品名:雨の夜に 作家名:東湖