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湯治余談

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湯帷子を羽織っただけの姿で横たわるしどけなさは、とても稀代の天才軍師のものとは思えなかった。
 普段は透き通るように白い肌が薄桃色に染まり、半開きの唇からは荒い息が漏れている。形の良い眉を寄せ、時折呻くように上げる声は切なげだ。体の奥に篭もる熱を持て余すかのように、ゆるゆると悶えているのがなまめかしい。
(このようなところを三成が見たらどうなることか)
 ふと、そんな懸念が秀吉の胸に浮かんだ。秀吉に対しての信仰に似たそれよりは浅いとは言え、半兵衛もまた三成にとっては特別な存在だ。敬愛以上の念を抱いた眼差しで、幼い頃からずっと見つめ続けているのである。
 その半兵衛のこんな姿を見たら、驚くどころの騒ぎではすまないだろう。三成にはそういう、妙に無垢なところがあった。
(あれが卒倒する前に何とかせねばな)
 そう思案しつつ、秀吉は傍らの手ぬぐいを拾い上げた。半兵衛が悶えて身を捩った拍子に額から落ちたのだ。
 冷たい水に浸したはずの手ぬぐいは、熱を吸い上げてすっかりぬるくなっている。それを手元の水桶に浸して絞ったものを、秀吉はまた半兵衛の額に乗せた。
 冷たさが心地良いのか、朦朧としたままの半兵衛がわずかに唇を動かした。だがそれは意味のある言葉には紡がれず、身の内の熱の色に染まったような舌だけがちろりと覗く。それがまた、男のものとは思えぬほどの色香だった。まるで情事の後である。
(このままでは三成どころか、どこの誰にも見せられぬぞ)
 困ったものだと思いながら、秀吉は桶の中の水を大きな手でかき回した。この男にしては珍しくぼんやりとした動作に見えるのは、その行為よりも思案の方に意識を捉われているからである。
 一体どこでどう間違えて、このようなことになったのやら。掌ですくった水が、指の間から流れ落ちていくのを見ながら秀吉は溜息を吐いた。
 秀吉はただ、今のように掌ですくった水を、いや、正確には湯を半兵衛に掛けただけなのである。
作品名:湯治余談 作家名:からこ