秘めた恋
覚めてしまえば、帝人は愛するひとのただの妹でしかなくなるのだ。
夢でくらい、愛するひとに素直に愛を伝えるぐらい、許して欲しい。
「ごめんなさい」
(だいすきなの)
瞼を閉じる。意識が曖昧に融け、ふわりと落ちていくのを感じた。
その間に帝人は思い出す。あの泣き虫で弱虫で臆病だった自分の頭を撫ぜてくれたのは、兄だったのだと。
ひとりの男として愛する前から、特別だった兄だったのだ。
それが嬉しくて、―――切なくて、帝人は落ちる間際にそっと微笑んだ。
告げた想いと共に泡沫に融ける夢を願いながら。
「――――みかど、」
名前を呼んでも、閉じた瞼は開かない。溢れた涙はもう無く、長い睫毛に残った雫を指で拭う。
「みかど」
(にいさん、だいすきだよ)
甘やかな声で告げた臨也の可愛い可愛い妹。
その声に含まれた艶に、気付かないほど臨也は鈍感でも聖人でもなかった。
(ごめんね)
「なんで、謝るの」
(ごめんなさい)
「俺が、好きなんだろ?」
(好きになってごめんなさい)
「謝るなよ。謝るな。言い逃げなんて、そんなの、・・・そんなのずるいだろ・・・っ」
臨也が心底欲しいと想う血の繋がる妹。無垢な笑みを汚したいと想うと同時に、護りたい慈しみたいとさえ想う。傍に居ることで自分の欲望が帝人を染めることを恐れ、そして願った。まだ、まだ駄目だと押し殺し、結局臨也は愛する少女とは違う、肉欲とケバい化粧の仮面を付けた女達との行為を受け入れた。離れればいいのだと頭の片隅で思ったが、無理だった。血の繋がりすら臨也は利用したかった。兄妹という大義名分があるからこそ、一緒に住めるという幸せを手放したくはなかった。
例え、いつも違う女を連れ歩く自分を見る妹の目に色が無くなっていっても。
(にいさん)
「好きなんだ、愛してるんだ帝人、お前をお前だけを、俺は」
何度お前を汚す夢を見たか。
その白く柔い肉体を暴きたかったか。
(だいすきなの)
「俺も愛してるよ、―――帝人」
薄く開いた唇に触れるだけのキスを贈る。
「逃がさないから、絶対に」
妹だから、兄だから、血が繋がっているからとか、それが何だというのだ。
その程度で諦める想いなら、とうの昔に捨てている。
そうだ、諦めるなんてもう出来ないほど、臨也は帝人を愛していたのだ。
長い間、ずっとずっと。
「早く目覚めなよ、俺の可愛い子」
臨也は笑う。
舌なめずりをする獣のように。
その眸を歓喜に煌めかせて。
「夢から覚めたら、死ぬまで愛してあげるから」
(もう、逃がさない)