誓い
5.
しつこく鳴り続ける目覚ましの音でようやく私は目を覚ました。
目覚ましを止め、眠い目を擦りながら、辺りを見回す。
「……鷹臣くん……?」
昨日いたはずの隣りの魔王陛下の姿が見えない。
「……あれ夢だったのかな…」
思い返してみれば、鷹臣くんが私にあんな弱いところ見せるわけないしなー。
一人で納得してさっさと着替えようと立ち上がる。
そのときふといいニオイが鼻を掠めた。
良く知っている甘い香り。
――コレ、鷹臣くんのコロンの……?
どこから?
クンクンと犬のようにカギ続け、ようやく気付いた。
私からそのニオイがしていることに。
じゃああれは夢じゃなくて、現実……?
その事実に思い至りカッと頬が熱を持つ。
そういえば、ここ居間なのに私の部屋の目覚まし置いてあるし!
混乱したままうんうん唸っていると時計がもう少しで遅刻寸前の時間を示していた。
慌てて思考を切替え、制服に急いで着替えて家をでる。
だから気付かなかったのだ。
それより大変なことに。
遅刻寸前で教室に滑り込み、席に座ってようやく一息つく。
走り過ぎて久し振りに息が苦しい。
「よー、遅かったな黒崎」
「あ、おはよー早坂くん」
息を整え、挨拶する。
「随分遅かったな、寝坊したのか?」
「いや、起きてたんだけど、ちょっと混乱してて…」
「混乱?」
「あ、いや何でもない…」
説明するには恥ずかし過ぎる。
間の悪いことに一時間目から数学だ。
ああ、どーしよー……
思わず机に突っ伏し、嘆いていると早坂くんが横から覗きこんでくる。
「おい、黒崎どうし――」
た、と最後まで台詞を続けることがなく、早坂くんはそのまま黙り込んでしまった。
不思議に思って、顔だけ横に向けると何故か私の首筋辺りに視線が集中している。
おまけになんだか顔が赤い。
「早坂くん?」
「――く、く、黒崎。オマエ、まさか――」
どうにも赤くなったり青くなったりして様子がおかしい。
「どしたの?ココなんかついてた?」
ずっとみられていた首筋をなぞる。
「いや、その、あのな――」
「うん?」
どうにも歯切れが悪い。
「あ、あのな。そこ――」
「おら、オマエらさっさと席着け」
タイミングよく(というか悪く?)鷹臣くんが入ってきた。
結局、早坂くんは黙り込んでしまう。
なんだったんだ?
ふと目と線を上げると、出席をとっている鷹臣くんと目が合ってしまった。
思わず、赤くなりうつむいてしまう。
「――佐伯か――」
低い声で早坂くんが呟いた。
――え? 何が?
「どしたの?」
「……あー……いや……」
佐伯のバカ野郎、と小さくつぶやくのが聞こえた。
なんなの一体?
私がシャツに隠れるようにつけられた首の赤い痕に気付くのは、それから随分あとになってからのことである。
首筋に咲かせた赤い華。
――それは永遠の束縛の誓い。