純愛イミテーション
は切れと催促する。
典彦は躊躇した。主の命令と、主の髪とを秤に掛ける。
典彦は悦史の髪が好きなのだった。艶のある絹のような髪。触れたことがない、と言うことも悦史のその髪を神聖
化させることに拍車を掛けている――……が、
結局、典彦は悦史の命令通り、悦史の髪へナイフを滑らせた。
想像していたよりもずっと滑らかなその感触と、シャンプーの匂いに酔いそうになりながら慎重に髪を切る。
少し切ってはもっとだと怒られ、また少し切ってはまだまだと怒られ――……悦史がもう良いと典彦を許した時に
は、悦史の髪は肩に届かないくらいの長さになっていた。短い髪とドレスのアンバランスさ。
「結構器用じゃねえの」
典彦に持ってこさせた鏡を覗き込んで、満足そうに悦史が笑う。
そこにはもう少女の面影はなかった。ただ、美しい顔立ちをした青年があるだけ。
「典彦」
「はい、……総領様」
青年は総領の余裕と威厳を持って笑みを浮かべる。
「言うことがあるな?」
「はい、総領様」
「言ってみろ」
「はい」
典彦は恍惚とした笑みを浮かべて、自らの手首にナイフを押し当てた。ナイフが安々と肉を切り裂いて、血がカー
ペットへ滴り落ちる。あの日の再現、痛みはやはり感じない。
「貴方のためならこの命惜しくもありません。肉の一片血の一滴まで、全て貴方に捧げましょう。」
「どうして?」
「…決まってるじゃないですか」
判って訊いているのだから悦史も意地が悪い。悦史は鼻を鳴らして笑うと、典彦へ顎をしゃくって見せた。
そうだ、当然だ。だって俺は--……
「貴方の奴隷なんですから」