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主人とワタシ

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たくさんのヒトと戦ってきました。たくさんの笑顔を見てきました。そしてたくさんの涙も見てきました。手持ちのタブンネとエモンガがボックスへ預けられました。「マスターが望むならボクはいい。ずっと待ってるから!」タブンネは一粒だけ涙を落として、笑っていました。「ボクはお荷物だったの?ボクは役立たずだった?ひでん要員でもなんでもいいから、ボクを旅につれっててよ!!マスターのバカ!」エモンガはまだ幼かったのです、主人の気持ちと使命を何も知らないままあんな言葉を吐いてしまったのだと思います。主人にはもちろんその言葉は届きません。届いてしまったら主人はどんな顔をするのでしょうか、酷く悲しい顔をするのでしょうか。それとも酷く冷たい顔をするのでしょうか。

ボックスに預けられたヒトの分、代わりに新しい仲間が加わります。それはワタシにとってもうれしいことです。もちろんワタシだけではありませんよ。
新しいヒトはまだ幼いクルミルでした。ワタシは少し胸が痛んだのです。いつもなら喜んで迎え入れるのに。どうしてかは、少しわかっていたのです。
主人が嬉しそうにポケモンセンターに入ってパソコンを起動させます。ワタシは今すぐ逃げ出したい衝動に駆られました。主人、ワタシはもう必要ありませんか?虫は一匹で充分ですか?ワタシはもう、あなたの傍にいることは出来ないんですか?

「クルミルかあ!!虫ポケモンなのにすっごくかわいい!!」

ワタシは初めてあなたに言われた言葉を思い出した。

『フシデかあ!!私初めてこんなかわいい虫ポケモン見た!!』

涙が出ました。一粒、二粒、三粒、四粒。主人、涙が止まりません。ワタシに笑顔を向けてください。ワタシに抱きついてきてください。もしかしたら病気かもしれません。なんでもなおしをください、かいふくのくすりをください。ふっかつそうでもいいんです。苦い薬でもガマンして飲みます。だからどうか、ワタシの涙を止めてください。止める方法を教えてください。すごく胸が苦しいんです。どうすればいいんでしょうか。主人、主人、主人、主人主人主人。
ワタシはボックスに預けらるのですね。かわりにクルミルが仲間に加わるのですから。主人、早くワタシを預けてください。いい子に待ってますから。呼ばれたら飛んでいきますから。ワタシ、すばやさはピカイチだったでしょう?だからワタシを。
主人はワタシの入ったボールをじっと見ていました。どこか悲しそうな顔をしていました。ワタシはそんな顔見たくありません。ワタシはアナタの笑った顔が見たいのです。だから笑ってください。いい子にしておきますから。ワタシは主人のおかげでこんなに成長できたのです。幼くて、ただでさえ弱い虫ポケモンのワタシをこんなにも立派にしてくれたのです。主人はとってもすごいんですから!ワタシの大切なたった一人の主人なんですから!
主人のポケットにあるモンスターボールからクルミルが見えました。クルミルはくしゃっと幼い顔で笑いました。

「ボクがお兄ちゃんと同じくらい強くなったら、一緒に旅しようね!!」

きっと、きっと。ワタシが幼いクルミルに元気をもらった。ずっと一緒にいたケンホロウもひょこっと顔をだして「こいつもお前のことはやく迎えにいけるように頑張ると思うから、おとなしく待っとけよ」と言えばまたどこかへ行きました。ワタシはまた涙を流しました。今度は悲しいという気持ちじゃない、嬉しいという気持ちの。
主人はワタシを見て笑いました。そうです、その顔です。ワタシはその笑顔に何度救われたと思っているんですか。ワタシはボックスに預けられました。そして目を閉じました。

ワタシがまた冒険する時の主人の笑顔を想像しながら。
作品名:主人とワタシ 作家名:ふゆ