共に眠る
「兄さんにも明日から一緒に来てもらう。そのためにこれに目を通していてくれ。作業開始が決まれば、すぐにでも位置の確認をしたい。兄さんなら覚えているだろう? なにせ生き証人だ」
「……あ?」
プロイセンは怪訝な顔をしたまま、ドイツに渡された書類を一枚一枚めくり、その内容を確かめていく。内容を把握していくにつれ、表情が強張っていくのが、プロイセン本人にも分かった。
ドイツは素知らぬ顔で話を続けている。
「さすがに、二百五年前の犬の墓の正確な位置など調べるのは至難の技だからな。兄さんがいて何よりだ」
「…ヴェスト、お前、これ…」
「とにかく、ナチスと混合されてしまった時期が長かったせいで、正式に埋葬するにも周辺の連中の許可を取るのに手こずってしまった。もう時間が無いんだ。絶対に明日から着工に入る。八月十七日までに必ず完成させないと意味がないからな」
「ヴェスト…」
「何だ? まさか、覚えてないとか言わないよな?」
「覚えてんよ! あの犬たちは親父に頼まれて俺が埋葬してやったんだ」
「そうか。それは良かった。やるからには、正確な場所でなければ、大王にも申し訳が立たないからな」
「そうじゃなくて…。ヴェスト、お前…」
「だから、何だ?」
「親父の墓を…、遺言した場所に埋葬し直すって…何で…」
「何で、とは? 妙なことを聞く。政治利用を恐れてあちこち棺が動かされるのも、いい加減に止めてやりたいと思わないのか?」
「そりゃ、思うさ!」
「だったら、なんでそんな顔をしているんだ、兄さん?」
不思議そうに首を傾げるドイツを見詰める。それから、いきなりプロイセンは書類を放り投げた。ドイツが「何をしてるんだ!」と叫ぶが聞こえてもいないようだ。
「聞いてねぇぞ、ちっくしょう!!!」
絶叫するなり、プロイセンは弟に飛びついた。抱きしめ、キスをしまくる。
「なんだ!? ちょ、離せ! 苦しい! 兄さん!!!」
驚いたドイツが、引き離そうと藻掻くが、意地でも離すものかとプロイセンは抱きしめる力を弱めない。
「ちくしょう! 俺様の弟、最高すぎるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!」
プロイセンの遠慮ない絶叫が響きわたる。
1991年8月17日 フリードリヒ二世の墓がサンスーシ宮殿の庭先の芝生に移された。 「犬たちと共に葬って欲しい」という遺言通りに、ようやく死後二百五年経った命日に犬たちと共に眠ることになる。