Meaning of blue(英米)
「イ、イギリス・・・!」
「お前が可愛いのが悪い」
手だけではなく、髪や額、頬に口唇。それからぎゅっと閉じられた目にも。
何かに耐える様にふるふると震えていたアメリカは顔中にキスをして
ようやく瞼を上げる。
久しぶりに俺を映しだしたのはゆらゆらと揺れるオーシャンブルー。
俺が愛した海そのもの。
「なあお前さ、自分の眼の色を例えるとしたら何に例える」
「俺、眠いんだけど」
「いいから答えろよ」
「・・・日本の言うとおり、俺は空だと思うぞ。海に例えたのなんて捻くれ者の
キミぐらいだ」
つんけんどんとしたアメリカの言葉にもそうかと答えて俺は笑った。
普段はここで怒りもするのだが、海に例えるのは俺ぐらいだけだと知って
その怒りは萎んでしまった。
アメリカは怒らない俺に不信感を抱いたらしい。
いつものキミならここでキイキイ怒るのにねと可愛くない言葉を連ねる。
その言葉にすら俺は怒りを感じず、むしろ良い気分で言葉を連ねるアメリカの口唇を
そっと塞いだ。
初めはもがいていたアメリカも優しく舌を差し入れれば、逆らうことなく
舌を絡めてくる。
このままもう一戦といきたいところだが、それよりも話を聞いてほしくて
俺は口を離し、物足りなそうなアメリカの頭を一撫でしてから口を開いた。
「俺だって、昔はお前の瞳の色は空だと思っていたよ」
初めて出会った時。
俺はこんなに綺麗な瞳がこの世にあるなんて思いもしなかった。
その瞳が空と同じ色を模しているのだと気づいたとき、俺は曇りばかりのロンドンの
空を初めて恨んだ。
せめて青空が見えれば、遠い新大陸にいるアメリカを想うことが出来るのにと
思ったからだ。
それからずっと俺はあいつの瞳の色を空に例え続けた。
あのとき、アメリカと隔たれてからもずっとあいつは俺の空だった。
「けどな、空は俺にとって遠いモノなんだ」
手を伸ばしても届かない、俺には手に入らないモノ。
いくら技術が発達し空を飛べるようになり、更には宇宙に行けるようになっても
俺にとって空はとても遠いものだった。
まだアメリカが俺の膝ぐらいだった頃は大西洋が、あいつが独立してからは
拭いきれないわだかまりが。
いつの時代も俺とアメリカの間には何か障害物があって、俺の伸ばした手は
あいつに届かなかった。
空に例えたあいつは本物の空のように俺には手の届かない存在だった。
「キミのところにはRAFがあるじゃないか」
「そうだけどよ。俺にとっては空よりも海の方が馴染み深いんだよ」
そうだよね。キミは七つの海の覇者だもんねと皮肉るアメリカの手に指を絡めて
ぎゅっと握る。
頬がますます赤くなったのは手を握ったからだけではない。
こいつは普段空気を読めないくせにこういうところで読んじまう。
だから恥ずかしがって逃げる前にしっかりと手を捕獲してから言葉を続けた。
「お前とこうなってから、海の色に例えるようになったんだ。最中のお前の眼の色って
少し青の深みが増して、海を覗き込んだような色に見えるんだよ。だからさ」
「うわああああ!もうやめてくれよ!!なんだい、キミは俺の目の色を例えるたびに
そんなことを考えていたのかい!!最低だ、最悪だ!!!」
「怒んなよ。こんなにお前を近くに思えるってすげぇことだと思わないか」
「~~~~っ」
顔を真っ赤にして喚き立てていたアメリカはとても悔しそうな表情を浮かべて
口を噤んだ。
否定が無いのはアメリカも認めているってことだろう。
俺が昔よりもずっと近いところに居るってことを。
掴んでいた手を引きよせて抱きしめるとアメリカは黙って胸に顔を埋める。
普段は無理なこの姿勢もベッドに横たわっていると難なくできる。
けどそれにはアメリカの協力も必要だ。
今のアメリカは文句を言っても、軽く突っぱねることがあっても
本気で抵抗することは無い。
仕方ないという顔をして、時には嬉しそうに俺の腕の中に収まってくれる。
これがどんなに凄いことなのかわかるのは俺だけだ。
俺だけが、このアメリカを知っている。
「・・・日本には言ってないだろうね」
「言ってねーよ。言っただろ。言いたいのはお前だけだって」
「・・・イギリスのむっつりスケベ」
顔を上げてまま憎まれ口を叩くアメリカに「ばあか」と囁いて、オーシャンブルーに
視線を合わせる。
相変わらず綺麗に澄んだ青は俺を映しこんで揺らめく。
軽く微笑んで無防備な口唇にキスを落とした俺は大切な宝物をぎゅっと抱きしめる。
願わくば、この温もりが喪われることのないように。
柄にもなくそう願って俺は腕の中のアメリカに再び口唇を寄せた。
作品名:Meaning of blue(英米) 作家名:ぽんたろう