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酒の中に真実あり

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「おーい、宵っ張り!」
どかん、とドアを蹴り開けて暗い甲板にナミが現れた。
音は大きいがそれでも他の船員よりは比較的小さな方だ。
蹴り開けたのには訳がある。
「飲み比べしよう!」
その両手にはワインが山ほど。落として割らないか心配なほどだ。
宵っ張り、と呼ばれたゾロは振り上げていた木刀を力なく下ろす。
流石、乗員歴が船長に次ぐ長さで、唐突に始まった騒ぎにも動じない。
「・・・・・今度は何だ?」
動じないが呆れはする。
これもまぁ、日常だろう。
「だから、飲み比べ。あんたと。」
言われて溜息を吐いたゾロを誰が咎められるだろう?
道を極めようとする戦士は人に技などを見られないよう夜間に鍛錬する。
それは拳士も剣士もで、多分に洩れず、夜番も兼ねてゾロはそうしている。
それを邪魔された挙句が、だ。
「今日の夜間特訓はもう終わり終わり。んで、飲もう!」
「何だってそんなことしなきゃなんねェんだ?」
「だって、思い出しちゃったもん。」
は?と常時不機嫌そうな顔を更に顰めて剣士は訊き返す。
「ウィスキーピークで!あんた13人目とかそこそこのところで酔い潰れた振りして終わらせたじゃない。
けどそれじゃぁどっちがこの船で一番酒が強いのか分からないでしょ?
だから今、決定戦をしようじゃない!」
「・・・・・勝手にしろ。」
「なーに、その態度。既に負け態勢?負け癖付くわよ?」
ゾロがピクリとしたのをナミは見た。
「付くのよ?負け癖。まーた負けるんじゃないかなぁ。」
「・・・・・・俺が、いつ負けたって?」
「えー、そんなの知らないわよ。でも、何回か負けてるって?」
その時ゾロは即座に髭の男を思い出した。
あの頃、ナミは行方を晦ませていた筈だ。
「・・・・・誰に聞いた?」
「さぁ?」
と煙に巻いたナミだが、実際のところ、誰にも聞いていない。
単なる憶測だ。
ただ知っているのは、一度も負けずに強くなる人間など居ないということだ。
自分がそうだった。
他の人間だってそう言った。
普遍のことだ。
だから何処でだって良く聞く話だ。
それを眼前の男に当てはめただけだ。
だから、
「まさか女に負けても平気なの?」
と言った時、それがゾロにどんな意味合いを持つかなぞナミは知らなかった。
「・・・・・寄越せ。」
言われてナミは他意も無さげにニコリとし、ワインボトルを投げてやる。
愛刀を傍らから離さない剣士の心得で、木刀を投げ捨てた三本刀の男は中空を飛ぶボトルの口を輪切りにする。
ボトルの口をそっと撫でたように斬った刀をしまうと、飛んだワインは一滴も零れずゾロの左手に収まった。
空を仰ぐとボトルを垂直にして、どぽどぽ口に落とす。
落下するワインの揺れる線と同じラインを咽喉が描く。
「そうこなくちゃ。」
にや、と笑うナミは暑さで少し上がったコルクを奥歯に挟んで引っこ抜いた。

甲板にはワインの瓶がどれほどだろう。
互いが二十本を飲んでから数えるのが面倒になったから、ざっと四十本はあるだろうけど、もう分からない。
食い散らかしたサンジのツマミは二皿で、流石に両方とも空だ。
双方ラッパ飲みのハイペースで続いたため、酒豪二人さえもう立っていることは出来ないザマだ。
しかし、それでも飲む。
「ちょっとぉ、いいかれんに諦めなさいよぉ。」
「・・うる・せェな・・・・てめェが諦め・・・・・ろよ。」
ナミは呂律が怪しい。
ゾロは船の揺れと一緒に言葉をどもらせる。
けれど二人とも気分は良いらしく、大人しい。
二人とも顔は真っ赤で熱いけど、潮風が気持ちいい。
甲板で飲んで大正解だ。
「ナミさん、クソ新しい酒です。
三年ものなんでちょっと若いですけど、まだ美味い方っす。
んで、野郎はこれだ。畜生、俺の調理用ワインまで飲みやがって。」
あっはっはっはと豪快にナミが笑う。
「んな・・・使い・・・・・さし、寄越すんじゃ・・・・・ねェよ。」
「なら飲むな。ギブしろ。」
「・・・あいつ以外の女・・に・・・負けちゃなら・・ないんだ・・・よ。」
負けてはならない女。そう聞いて海軍の軍曹を思い浮かべた二人が色めき立つ。
おお?とサンジが目を丸くした。
ナミがニタリと笑う。
「あいつって?いっらい、られの事よ?」
脱線した感もあるが本題はこっちだ。漸く口が軽くなったのだろう。
「あいつ・・・・は・・・あいつだ。くいなの・・・・・ばぁか。俺に勝った・・・・・まんまで・・死にやがって・・あいつだけが、俺に・・・・・・・勝ち続ける筈・・・だったのに・よ。」
くいな、という初めて聞いた名前に二人が怪訝な顔をする。
どうやらハズしたようだ。
「じゃ、あの娘は?」
痺れが切れているサンジが堪らず尋ねる。
「・・・・・んぁ?」
「てめぇが手を上げたレディだよ!」
女性第一主義者は思わず声を荒げる。
が、茫洋とした酔っ払いにそんな真摯さなど通用しない。
「・・・あー。・・・海兵の・・か。」
得たりとすると、不意にゾロがくつくつと咽喉の奥で笑い出す。
「あんの、パクリ・・・ほんっと、くいなに・・・・似てや・がる。
 なんで、あの顔っが、幾つも転が・・・って・・・・・」
二つ、息を呑む音が聞こえた。
珍しく女に気をかけるのが分かった気がしてナミが恐る恐る尋ねるが、
「似てるって、らから―」
「ああ?誰と誰が似てるって?!」
ゾロは急に不機嫌に声を荒げて言葉を遮る。
「だから、」
「ちっとも似てねェぞ!
 くいなはあんなに弱くねェし、覚悟が違う、覚悟がっ!」
今度はサンジが口を挟もうとしても、やはりすぐ言葉を遮られる。
完璧に、酔ったらしい。サンジ相手に凭れるようにとぐろを巻く。
「いっそ男に生まれたかったっつったんだ、あの甘ったれの海兵は。
 くいなはなぁ、きっちり、男に生まれたかったんだ。
 そう言って、泣いたんだぞ、泣かない奴だったのに!」
どこがどう違うんだとサンジは訊きたかったが、あえて何も言わない。
いきなり怒り出した酔っ払いには何を言っても無駄だ。
「いっそ、だとよ。・・・そんな半端な気持ち・じゃ、くいなにゃボロ負けだ、あのパクリ。」
ヘッと嘲笑するように言うと、
「大体、くいなは女のままで俺に・・・・・勝つって、決めたんだ。
 女だからって・・・言い訳にしねェって。
 だから、あのパクリは・・違う。
 女、女って・・言い訳・・・・ばっかり・・・・甘った・・・れ・・で・・・・ワイ・・イった・ら・・・・・」
いきなり激昂したので疲れたらしい。とうとう寝入ってしまった。

「ま、目的は・・ヒック、はらしたわね。」
くすくすとさも可笑しそうにナミは笑う。
意外と、ゾロに見せた酔いのかけらは鳴りを潜めている。
舌足らずな様子は演技だったらしく、じゃあ一体どこが酒の底なんだ、とサンジは冷や汗だ。
「しかしまあ、こういう話だったとは意外ねぇ。」
女性に手をあげた男が同じ船内にいる、という事実は、実はサンジには随分と度し難いことだった。
たとえ海兵といえど、女性を泣かせるなんて。
そんなのが、同じ船にいて、生活を共にしていて、あまつさえ自分が作ったメシを食うなんて!!
激昂するサンジに、ナミがこう言った。
「まぁまぁ、じゃ、ちょっと聞いてみようじゃないの。」
作品名:酒の中に真実あり 作家名:八十草子