さよなら、笑うのが難しい
圧迫されて、喉が鳴る。必死で酸素を取り込もうと口を開けてたけど、飲み込む唾液がなくなって、ひどく喉が渇くだけだ。気持ち悪い。気分が悪い。血の味がする。きっとどこか切れてるんだろう。どこかなんて分からないくらい傷があるから、よくわかんないけど、とりあえず痛い。体中が痛い。熱い。自分の身体のはずなのにうまく動かせない。身体を預けたソファの冷たさは熱を持った俺を慰めるけど、本当は何かに触れるのも痛い。中に浮かべないものかと思うくらい、そこらかしこがズキズキと痛む。そして、今にも吐き気に変わりそうだ。この状態で喚いたりしないことだけが、もはや自分の矜持のように思えた。本当はそんなことをする気力もないだけだけどな。笑えないぜ、全く。
どこかしら折れてるかもしれないから、多分熱が出るよ、と甲斐甲斐しく手当をする男は言った。傷口に薬を塗って、真っ白なガーゼをあてて、包帯で固定。はみ出した部分は綺麗にハサミでカット。その動作が何度も繰り返されるのをぼーっと眺める。ああ、やっぱり几帳面だな、この人。
「明日、病院連れて行ってあげるから。それまでこれで我慢してね。」
「・・・・・・。」
なんだかもう他人事のように男の声を聞いていた。この人の言うことは完全に正しいので、俺が従わないことはない。第一、これだけ怪我をして普通の病院になんて行けないに決まってるだろ。怪我の経緯なんて詳しく聞かれたら、もうどうしようもないだろう。頭も身体も擦り切れていても、それくらいのことは分かる。だから、彼に任せるのが最善の選択に違いないんだ。声を出すのも億劫で、ただ小さくうなずいた。
舌で辿れば染みるだけだし、鉄臭い味が広がるだけなのも分かっているけど舌で傷口を辿る。ぼこぼこした感触とちりっとした痛み。
「顔は割と無事だね。」
白い指が優しく頬を撫ぜた。正直、やめてほしいところだけど、抵抗する気力がないので、好きなようにさせておく。ああ、気持ち悪い。
涙が乾いた跡がひりひりする。臨也さんに撫でられたところもひりひりする。
「まぁ、そんなこと言ってらんないくらい怪我してるか。」
最期の仕上げとばかりに、前髪が掻き上げられて、冷えピタが貼られた。
「つめたい。」
呟いたはいいけど、口の端がまた切れた。ちくしょう。
「気持ちいいでしょ?」
確かに気持ちが良くて、目を瞑った。
「おでこちっちゃいね。」
相変わらず、この人はよくわからない。
どこかしら折れてるかもしれないから、多分熱が出るよ、と甲斐甲斐しく手当をする男は言った。傷口に薬を塗って、真っ白なガーゼをあてて、包帯で固定。はみ出した部分は綺麗にハサミでカット。その動作が何度も繰り返されるのをぼーっと眺める。ああ、やっぱり几帳面だな、この人。
「明日、病院連れて行ってあげるから。それまでこれで我慢してね。」
「・・・・・・。」
なんだかもう他人事のように男の声を聞いていた。この人の言うことは完全に正しいので、俺が従わないことはない。第一、これだけ怪我をして普通の病院になんて行けないに決まってるだろ。怪我の経緯なんて詳しく聞かれたら、もうどうしようもないだろう。頭も身体も擦り切れていても、それくらいのことは分かる。だから、彼に任せるのが最善の選択に違いないんだ。声を出すのも億劫で、ただ小さくうなずいた。
舌で辿れば染みるだけだし、鉄臭い味が広がるだけなのも分かっているけど舌で傷口を辿る。ぼこぼこした感触とちりっとした痛み。
「顔は割と無事だね。」
白い指が優しく頬を撫ぜた。正直、やめてほしいところだけど、抵抗する気力がないので、好きなようにさせておく。ああ、気持ち悪い。
涙が乾いた跡がひりひりする。臨也さんに撫でられたところもひりひりする。
「まぁ、そんなこと言ってらんないくらい怪我してるか。」
最期の仕上げとばかりに、前髪が掻き上げられて、冷えピタが貼られた。
「つめたい。」
呟いたはいいけど、口の端がまた切れた。ちくしょう。
「気持ちいいでしょ?」
確かに気持ちが良くて、目を瞑った。
「おでこちっちゃいね。」
相変わらず、この人はよくわからない。
作品名:さよなら、笑うのが難しい 作家名:はづき