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さよなら、笑うのが難しい

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今日の喧嘩はさすがに勝ち目がなかった。
一対十数人。
雑魚ばかりならまだよかったのに、頭の切れる奴がいたらしくひどく統制がとれていた。

冷静になった今なら、あのときの最善は逃げることだったと思える。
でも、そういうわけにはいかなかった。
自分はチームの頭だから、という考えで全てだった。
逃げてしまえば、全て終わりだ。示しがつかなくなってしまう。相手に最低限の爪痕を残さずに、尻尾巻いて逃げるなんて選択肢は浮かばなかった。

階段に誘導したところまではよかったんだけどなあ。セオリー通りには進まないもんだ。
ていうか、武器まで持ち出すとかほんと反則ばっかだろ。あいつら。
なんとか半分程のしたところで、自分のダメージが大きくなり過ぎた。
そして、深夜三時。
無様な俺は臨也さんの事務所に逃げ込んだのだ。なんてこった。考えられない。
でも、ここ以外に行く場所が思いつかなかったのも事実なのだ。

「口開けて。」
最初に錠剤が放り込まれ、蒸せないように注意を払われているのが分かる手つきで水が注がれる。つめたい。ごくごくと喉を鳴らして、飲み込んだ。
臨也さんの手が優しく髪を梳く。なんだかひどく優しくてくすぐったい。こんな風に誰かに撫でられるのはいつぶりのことだろうか。ああ、帝人に会いたい。じくじくとした痛みが広がって、泣きたかった。絶対にそんなことしないけど。
「頑張ったね、正臣君。いい子だよ。」
もう眠りなさい。痛み止めはすぐ効いてくるから。
ああ、痛み止めだったのか。差し出されるものを何の疑いもなく飲んでしまった。弱り切ってる自分を感じて、心の中で笑う。馬鹿。


どうして、こんなことを始めてしまったんだろう。

微睡む瞬間、回らない頭は少しだけ後悔した。
「おやすみ。正臣くん。」
俺が手に入れた優しい手は全てを忘れさせてくれる。
それはきっと幸せだった。
この言葉さえも明日になったら、きっと思い出せないけれど。

ほどなく、思考は緩やかに溶けていった。