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耀さん生日快楽記念小話

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 連休の最終日は皆で揃ってお祝いしましょうねと言っていたにも係わらず、当日になると年少組の三人は謀ったかのように「用事が出来たから」と言って外出して行った。越ちゃんとお出掛けする事になったの、偶にはアーサーが来いって煩いから英国行って来る、サッカーの観戦チケット貰ったんだぜ、言い訳は三者三様に異なるものだったけれど、きっと前から共謀していたのだろうなと菊は憂鬱な面持ちを隠さずに溜息を吐いた。彼らが何を思って出掛けて行くのかを悟れないほど鈍感では無いつもりだが、正直余計な事をしてくれたと苦々しい思いだった。邪魔物はいなくなるから兄貴と宜しくやるんだぜとは流石に口にこそ出さなかったけれど、勇洙の好奇心旺盛な瞳とくるりと飛び出した前髪の一部はキラキラと悪戯に私意を駄々漏れにさせていた。
 ――――あ、そうだ。菊、菊。
 ――――え?
 玄関まで見送りに出ていた菊を振り返った勇洙は、徐にコレ、と紅色の大きな長いリボンを渡して来た。思わず受け取ってしまった菊だったが、一体コレは何に使うのだろうと首を傾げていると、隣の香がニヤリと最近富に長兄に似てきた悪い笑いを頬に披露しながら言った。
 ――――俺達からの、センセイへのプレゼントっす。
 ――――そうですヨ。邪魔者はいなくなるから、二人っきりで仲良く過ごして下さいネ?
 香の後ろからぴょこんと顔を出した湾が花開いたような可憐な笑みでそう言うのに、漸くリボンの意図に気が付いた菊はカーッと一瞬にして頬を朱に染めた。
 要は自らリボンを巻いて、自分そのものをプレゼントだと言って耀に差し出せと彼らは言っているのだ。
 ――――なっ、な、な、なにを、そんな、ごじょうだんを…っ!
 慌てふためいてパタパタと泳いでいる次兄の腕をバッと空中でキャッチした湾は、反対の手からリボンをスルリと抜き取ってクルクルと器用に菊の右腕に巻いていく。
「ハイ、綺麗に巻けましたヨー」
 芸術的とさえ呼べそうな見事なシンメトリーにリボンを結んで見せた湾は、良い仕事をしたとばかりにさも満足顔で額をふー、と拭っていた。
 ――――ちょっ、コレ……!
 ――――自分で取っちゃダメですヨ?
 即行でリボンを解こうとした次兄をすかさず諌めて、湾は菊の腕を取りふるふると首を振るった。
 そうして三人は軽いパニック状態に陥っている菊を置いて「行って来ます!」 と晴れやかな笑顔で出掛けて行ったのだ。広い家にたった一人で取り残された菊は、右の手首に巻かれたリボンをそのままに呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
(ど、どうしましょう……どうしましょう、これ……)
 居間に戻って畳の上をぐるぐると徘徊しながら、菊は今後の事について頭を抱えていた。このままだったら耀はもうすぐ帰ってきてしまうし、家の中が二人だけしかいないと気付かれたらどんな事になるか……想像しただけでも恐ろしかった。それに折角の記念日だと言うのに、自分一人で耀をもてなす事が出来るだろうか。食事の用意は事前に耀自ら大量の餃子や菓子や料理を拵えているので自分で用意する必要は無いし、配膳の支度をするだけならいつもと変わらないし、もっと特別な贈り物の一つでも用意しておけば良かったのだけれど、あの人の喜ぶものと言ったらキティちゃんのぬいぐるみ位しか思い浮かばず、それは一応彼の部屋の寝所に綺麗にラッピングして設置済だった。毎年無理を行って前年度よりもサイズの大きなものを作らせているけれど、そろそろ大きさにも限界だとメーカー側から苦情が来るかもしれない。
 食事で持て成す事が出来ないとなれば、後は何をすれば良いのだろう。風呂に誘って背中でも流してやれば良いのだろうか。しかし耀の事だから背中を流すと言っても確実に他の違う行為を要求されそうなので、入浴関係の世話は出来れば自分からは言い出したくない部類だった。
 だったら、食事が済んだら縁側に出て晩酌にでも誘ってみようか。十月に入って夜の風は冷たくなってきたけれど、まだ宵の口なら耐え切れないと言うほどではない。酒を温めておけば身体を冷やさずに済むだろうし、あの人も熱燗は気に入っていた筈だ。今日はよく晴れた月夜の晩になると天気予報でも言っていたので、絶好の月見酒日和かもしれない。
 思い立ったが吉日、そうと決まれば早速晩酌の準備をしようと思った。日本酒のストックは有ったはずだけど紹興酒も用意しておいてあげたいので、行き着けの酒屋まで買い出しに出掛けよう。酒の肴は餃子をアレンジして作れば良いし、月餅も沢山買ってある。他に用意するものは無さそうだと脳味噌をフル回転させながら立ち止まっていると、突如として菊の背後に急速に忍び寄る一つの影があった。
「――――そのリボン」
 右手の人差し指と中指に顎を乗せて考え込んでいた故、和服の袖が肘の辺りまで滑り落ちており、湾に結んで貰ったリボンが抜群の存在感を放って右手首を飾っていた。急速に忍び寄っていた人影……帰宅したばかりの耀の視線は、真っ先にその紅い華やかな飾りに引き寄せられる事となった。
「どうしたあるか? その腕は」
 両腕を広げてぎゅうっと後ろから弟の身体を抱き締めた耀は、肩口からにゅっと顔を出して不思議そうな面持ちで右腕を見下ろす。
 うわぁ、と驚き、咄嗟に逃げ腰になった菊の脇腹に素早く腕を回して、背後からしっかりと抱き締めた耀は、肩口に顎を乗せて全体重を掛ける勢いで圧し掛かってきた。不意打ちだったので耀の分まで体重を支えきれず、菊は膝の力を失ってその場にずるずると押し崩されてしまう。
「っ……、ちょっと!」
「もしかして、お前自身が我の礼品だったりするあるか?」
 頬に唇を寄せてそう低く囁かれ、胸を掻き抱かれて胡坐を掻いた兄の膝の上にぎゅっと引き寄せられる。予想外に早かった耀の帰宅と、それ以上に普段は公共の場である居間で抱擁を受けた事に驚いて菊は全身を硬直させた。
「こんな所で……っ」
 やめてください、と振り払おうとした腕はいとも簡単に取られて、逆に握りこまれてしまう。そのまま手の甲を口元に寄せられて、軽い口付けを交わす可愛らしい音が肌に鳴った。
「野暮あるね。こんな所でこういう事させる為に、あいつらは出掛けていったんじゃねぇある?」
「っ……」
 手の甲に熱い吐息を受け、背中には耀の体温を直に感じている。彼の言うとおり、この家に自分達を咎める者は誰もいないのだ。
「この色帯を解いたら、お前は我のものになるあるね」
 プレゼント包装のリボンを解けば、中身そのものである菊自身はリボンを解いた者が貰い受ける事が出来るのか。耀はとても愉快そうに微笑みながらそう尋ねて来る。
 僅かに逡巡する様子を見せた菊は、しかしふるふると力無く首を横に振って否定を表した。このジャイアンな兄に限って、その問い掛けを完全否定した暁には何をされるか解かったものでは無いと直感で悟っていたので、すぐにいいえ、ちがいますと釈明を唇に乗せる。微かに躊躇う心を感じつつも、ふわりと畳に広がっている紅いゆるやかな流れを目で追いながら、菊は続く言葉をゆっくりと吐き出していった。
「……私の心は、もう……とうに貴方のものですもの」