【銀誕】そうやって世界は終わってゆく
それでも墓には誰かが手入れをしている形跡があって、飾られた金木犀の花は未だ香りを持っていた。
―――つーか、墓に金木犀って、
「粋なことする奴もいるもんだ、似合わねェけどよ」
激辛せんべい、マヨネーズ風味。
確かこの間出た新商品だったか。銀時は手にさげていたコンビ二の袋から同じものを取り出せば、隣にそれを並べた。
「死して尚、色褪せない想い――ってか?幸せモンだねぇ、別嬪さん」
くすくす、
「ほら、前に言ってたじゃん。この曲の名前、思い出せないって」
「思い出したら、教えてって、約束したよな」
「――って、まあ思い出せてねぇんだけど」
「あんたが言ってたってこともすっかり忘れてたくらいだ」
「こりゃ、やっぱり俺も年かね」
「沖田君見て、思い出したよ」
なぁ、
「あんたの弟は、強いな」
「周りが考えてるより、ずっと強いな」
「少し、羨ましい」
それから、
「俺はあんたも少し、羨ましくなったよ」
「死んだらさ、誰の記憶に残らずに消えたいと思ってた」
「多分、自分の所為で誰かを泣かせるのが嫌だったとか、そんなことじゃねーんだ」
「俺は誰かの記憶の中で、笑ったりできるのかって」
「松陽先生みたいに」
「死んでからもずっと、誰かの記憶の中で笑ってるあんたみたいに」
「そう思って」
「だったら、そんな存在ごとすっぱり消えちまった方がマシじゃねぇかって」
でも、
「俺が死んだら、きっとあいつらは泣くんだろうなって」
「そんな馬鹿みてぇなこと考えたりすんだ」
「けど、そんな馬鹿みてぇなこと考えてると」
「すっげぇ、幸せなんだよ」
「死にたくなくなるくらい、幸せなんだよ」
「馬鹿だよな、俺は」
耳からイヤフォンを外すと、中からカセットを取り出して激辛せんべいの隣に添えた。
「ま、俺も考えとくからあんたも考えといてくれよ。んで、わかったら教えてくれ。――・・・出来る限り怖くない感じの出方で」
くすくす、
漸く見上げた空は、秋晴れの青が何処までも広がって、それに一本飛行機雲が線を繋ぐ。
「・・・・・帰るか」
イヤフォンを両耳に入れて、頭の中でだけ反芻するメロディを鼻歌にのせて石段を下る。
――嗚呼、面映い。
面映くて、つい、顔が緩んだ。
作品名:【銀誕】そうやって世界は終わってゆく 作家名:ゆち@更新稀