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大きな子供がいるものですから。

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※♀主人公の名前を【ホワイト】としております。




手持ちのポケモンを回復させた後、チェレンはセンター内の、備え付けの椅子に腰をかけた。
すかさず手持ちのレパルダスが足下にすり寄ってくる。ズボンの布越しに感じる毛の柔らかさを楽しみながら、彼は、掌中でライブキャスターを弄んでいた。

電話しようか、どうしようか、やめようか。

幼なじみの女の子の顔が、脳裏に浮かんでくる。
彼女の笑顔、泣き顔、怒り顔……を見なくなってから、どれぐらいの時間が経ったのだろうか?

故郷にいたときには、周りに同じ年頃の子供が少なかったから。物心が付いた頃には、自然と常に一緒に行動するようになっていて。
自身と違って感情豊かな彼女の事を、ウザがっていた時期だって、長い付き合いの中にはあった。

しかし、カノコタウンを離れ、互いが別々の道を旅している今となっては……。


(なんか、無性に寂しいって思っちゃうんだよね……。あの賑やかさが恋しいというか)


もう一人の幼なじみであるベルには、この間小さな町に立ち寄った時、偶然にも出会うことができた。
彼女は、長い旅を通して、精神面的にしっかりしてきた……と博士は言っていたのだが。


やぁ久しぶりと挨拶を交わそうと口を開こうとしたとき。いたって普通の顔をしていたのにも関わらず。
「チェレン!額に皺がよっちゃってるよ!難しい顔をしないで、笑って笑って!!」と言われ、いきなり頬を摘まれたのである。
意地悪でもなく、イタズラでもなく、真剣な表情で。


ベルは、しょっちゅう突拍子もないことをするものだから、ついていけないと思う。
しかし、正直に言うと、昔と全く変わっていない彼女のマイペースさをかいま見ることができて、ほっとしたのも事実。

見えない所で、昔なじみがどんどん変わって、自分の知らない 誰か になるのではないか。
旅している途中に、変な不安感や嫌な焦燥感におそわれる事があったのだけども。


(ベルはベル。表面は変化しても、本質は全く変わりようもないって事に何で気がつかなかったんだろう!)


片手でレパルダスの頭を撫で、もう一方の手でライブキャスターのスイッチを入れる。
電話帳に登録した名前を上から下へ徐々に探っていくと、下の方にお目当ての名前があった。


【ホワイト】


幼なじみの女の子。彼女とは長いこと会ってない。


(ホワイトも、やっぱりちょっとは変わったりしてるのかな?)


お転婆を絵に描いたような性格をしているから、怪我とか病気とかはしていないと思うけども。
強い精神力の持ち主なのは充分よく知ってるから、どんなことがあっても乗り越えていけるだろうけども。


ベルが「ホワイト?うーん、ちょっと雰囲気が変わっていたかも」と言っていたのが気にかかったのだ。
チェレンはホワイトの名前を選択し、通話ボタンを押した。

電子音が規則正しい間隔で鳴り響く。
……それと一緒に鼓動の音がすぐ耳元で聞こえる気がするのは、なぜだろう。

たかが(昔からちょっと気になっていた)幼なじみに電話するだけなのに。
会話だって取り留めのないこと……例えば今どこにいる?とか最近の調子はどうだ?とか(君はポケモンにも人にもモテるから心配なんだよ。とか)……をする予定だし。
だから、手に汗をかいていることだって、胃がキリキリと締め付けられていることだって、気のせいに違いない。


(僕は緊張なんかしてないぞ……)


色々とと考えているうちに『もしもし?』電話がつながった。
一気に跳ね上がる心臓を押さえ、なるべく平静を装って、声が震えないよう祈りながら。
チェレンは言ったのだった。


「ホワイト?僕だよ」

『!久しぶり、チェレン!』


何も映っていなかった画面に映し出される、久々に見たホワイト。
彼女はいつものアクティブな服装と違い、寝間着姿をしていた。しかもただのパジャマではない。
白くひらひらとしたレースがふんだんにあしらわれている。
画面上には彼女のバスとアップしか映されていないから、絶対とは言いにくいが、上がこの状態なら、きっと下の方はスカートになっているのに違いない。
……というと、これが世に言うネグリジェなのか。彼女はそのような物を着るなんて、少しチェレンには少し意外に思えた。
(まぁ、似合ってるからいいけど)

ネグリジェ(予想)。
そして、ホワイトがやや湿った長い髪を下ろし、頬はほのかな赤色に染まっていることから考えると。


「……もしかして、お風呂入ってた?」
『そうなの。そろそろ寝ようかなって考えてて……』


チェレンはちらりと、壁に設置されている時計を見た。
8:47(pm)


「寝るにはまだ早すぎる時間じゃない?」
『うーん。やっぱりそう思う?』


えへへ……とはにかみ笑うホワイトを見て、またもや心臓が高鳴った。
すぐさま「何で動揺してるんだボクは!」と我に返ったチェレンは、気を取り直すためにズレてもいない眼鏡を手で押し上げる。
そこで、気を落ち着かせてから「……そういえば、ホワイトは、今どこにいるの?」と、会話を続けたのだった。


『ベッドの上よ』
「……じゃあ、そのベッドはどこにあるんだい?ポケモンセンターの宿舎じゃないみたいだけど」
『今日はちょっと贅沢して、ホテルをとってみたんだ』
「宿舎はただで提供されてるのに、わざわざお金を払って?もったいないな……」
『いいの!たまにの贅沢なんだから!そういうチェレンは……今、ポケモンセンターみたいね』
「何でわかるのさ」
『チェレンの声と一緒にジョーイさんの声が聞こえてくるの【あなたのポケモンはみんな元気になりましたよ!】って』
「あぁ、なるほど……」


ド、ド、ド、ド……一定のリズムで、過剰なぐらい大きい心音が耳元で鳴り響いている。
落ち着け、相手は幼なじみだ。落ち着けと言い聞かせても……悲しいかな、心臓は脳の命令に従わない器官だ。全く収まる気配を見せなかった。

ホワイトは見た目こそ変わらなかったものの、額にかかった前髪をはらったり、少し首を傾げるといったちょっとした仕草が、すごく大人っぽくて。
服装とマッチしていて、妙に色っぽい。
おそらくこれが原因でドキドキするのだろう。と、チェレンの頭の冷静な部分は、勝手に分析をしていたのだった。


(でも、おかしいな……)


去年、ホワイトの小首を傾げて笑う癖を、自分は「子供っぽい」と思っていたはずなのに。


『それにしても珍しいね』
「何が」


頭の中では沢山の?が飛び交っていた。
しかし、話の方は、何も変哲も無く、普通に進んでいく。


『チェレンから電話かけてきてくれるなんて、滅多にないんじゃないかなって思って。何か用でもあるの?』
「別に。顔が見たかっただけだから」
『え?』
「それと、君の声は眠気覚ましに丁度いいしね」
『何それ、私の声はやかましいって言うの?』


アハハ、とホワイトの明るい笑い声がスピーカーを通じて聞こえる。
あぁ、また大口開けて笑ってる。せめて口を隠して笑えと昔々から言っているのに。癖なのか、なかなか直らない。
やっぱり、髪を下ろして女の子らしい装いをしていても、ホワイトはホワイトのようだ。