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大きな子供がいるものですから。

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「僕はそんなにおかしい事を言ったかい?」
『ううん、そうじゃないってば……。で、チェレンは今どこのポケモンセンターにいるの?』
「××だけど」
『あ、そうなの。私○○のホテルに泊まってるの。結構近くにいるんだね。私たち。明日にも会えるんじゃない?
 ……あ、でも、チェレンにはチェレンの予定があるものね。急にこんな事を言っても・・・』
「大丈夫だ」


自分自身でさえ聞いたことのない、低く力強い声がでて、彼は自身で驚いてしまった。
画面の向こうにいるホワイトも、何事かと言わんばかりに、長い睫を瞬かせている。

ド、ド、ド……と、相変わらず鼓動の音がうるさかった。
しかも、気のせいか、先ほどよりも音が大きく、激しくなってきた気がする。


「せっかくだ。会おう」


ライブキャスター越しで会話するだけでは、最早物足りない。
実際にホワイト会いたい。凄く、凄く、凄く!


「会って、話そう」


今やチェレンの心臓は、張り裂けんばかりに脈打っていたが。
不思議な事に、ドクドク流れる血液の感覚が、心地よい。
緊張しているのに、それと同時に笑い出したくなるぐらいとても愉快な気分でもある。
様々な感情が入り乱れていて……。こんなハイな気持ちになったのは初めてだった。


「僕は君に、会いた」


天国から地獄へ、一気に急降下する出来事が起こったのは丁度この時だった。
画面斜め下から伸びてきたのだ。そして、チェレンが「あ」と言う前に、その長い腕はホワイトの細腰に巻きついた。

『きゃっ!』短い悲鳴が上がる。

そして、続けて画面外から内へ、ひょっこり顔を出したのは。
見覚えのある黄緑色の頭に、不健康なまでに白い肌。
熱を帯びた感情が急速に冷め、心音が徐々に小さくなっていく。
自分より3~4つ……いや、もっと年上であろうこの男の存在を、いやと言うほどチェレンは知っていた。


理解不能なのは、どうして ホワイトと一緒に居るのか ということで。


『N、起きちゃった?』


ホワイトの声音からすると、どうやらこの電波野郎が、不法侵入をやらかした訳では無いようである。
それだったらどんなによかったことか。変態削除の口実になったのに。

N、と呼ばれた男は、焦点のあってない瞳でチェレンとホワイトを緩慢な動作で交互に見た。
そして、チェレンの方を向いて、数回瞬きをした後言ったのだった。


『今、男の子の声がしたけど。誰か居るの?』
「目の前にいるだろ」


思わず突っ込んでしまったが、相手は『ん~……』と相槌だかそうでないんだが、
気の抜けるような声を出しただけだった。


『ホワイト、聞いてる?』
『はいはい。聞いてるわ。今ね、ちょっと友達と話しているの。Nも知っていると思うわ。チェレンって言うんだけど』
『チェリム?』
『もう、違うってば……』


くすくすと笑いながら、ホワイトはNの頭を撫でてやっていた。
腰の腕を解こうとしない優しさ、母性を感じさせる柔らかい動作。
今までにお目にかかったことのない、穏やかな彼女の表情を見たチェレンの心拍数は、再び上昇したのだった。


『チェリムも……ともだち……』


それに比べて、今のNは、まるで小さな子供のようだ。やや舌足らずな口調のせいかもしれない。
はっきりしない言葉・徐々に消え行く語尾が、幼稚な印象を与えるのだ。

きっとNは寝ぼけているのに違いないとチェレンは思った。
普段の彼なら、ポケモンよろしく、締りの無い顔をして、ホワイトの腰に頭をすりすりと摺り寄せるなんてことはしないだろう。
……多分。


『ごめんね。話し声煩かったでしょう?私は場所を変えてお話しするから、Nは寝てていいよ』
『やだ』
『やだ……って』
『一人で寝るのは嫌だよ。ホワイト』


腰から腕を放した後、Nは上半身を起こした。
ホワイトと彼との、十五センチ以上あるであろう身長差が露になる。


『一緒に寝よう?』
『だから、私はチェレンと話していて……』
『一緒に寝よう』


嘆願から命令へ。
本当に寝ぼけているのか、突然に普段の口調に戻ったNは、胸の中にホワイトを閉じ込めると、彼女もろともベッドに倒れこんで――……。


耐え切れなくなったチェレンは、ライブキャスターの電源をオフにした。
遮断される音。真っ黒になった画面……に写っている自分の眉間には、ものすごい量の皺がよっている。
傍に居るレパルダスが、たじろぎ怖がっている様子からすると。
どうやら、今の彼は相当酷い表情をしているようだった。


「なるほど……ね」


ホワイトの雰囲気が変わった……彼女が急に大人びた理由が、今分かった気がした。


「とりあえず、Nの奴……今度会ったら……ぶっ飛ばそう」