トリカゴ 2
真っ直ぐすぎて繊細な声、なのに力強い透き通る声。裏も表もない彼の心のまま流れ出る声。この奇麗な音をもっと聞いていたい、相応しい音で、旋律で、表現で。そしてその世界に浸れるのならどんなにこの穏やかで満たされる時間が続くだろう。
この数年感じたことがない至福に、キーボードに触れる指が強張り、震える。この感情を表す言葉を何故忘れたのだろうと歯痒さに涙まで浮いてきてしまう。言葉ではなく感性で物事を考えるサイケは、ただ感謝と感動を示そうと、キーボードを思うまま弾き奏でていく。
言葉の代わりに様々な感情を音に込めて、細い指が鍵盤を滑る旋律を愉しんでいく。こんなに音を出すのが楽しくなるなんてどれほど忘れていたのだろう、とサイケ自身でも驚くほどだ。言葉が頭をぐるぐる回るがどれもカタコトばかりで形にならない。本当に言いたいことや伝えたいことに、言葉というものはあまり意味を持たない。自分が思う言葉は、相手にとって違う意味で捉えられてしまうかもしれない、言いたいこと全てが収まりきれずに零れ落ちてしまうかもしれない。
だから、歌や曲にいえない言葉を全て注ぎ込むから、どうか聴いてほしいと。
いつか、目の前で歌う彼を見れたならと初めてサイケは外の世界を夢見ていた。