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一瞬何を言われているのか理解できなかった。多分それは僕だけでも無いだろうし、前からこの会社と提携しようと睡眠時間を削り仕事をしてきていた部下たちの顔を見ると、数秒前の表情のまま氷漬けにされたように静止している。動揺と不信感が会議室を形作って、動いていたはずの時間が停止して、また焦るように動き出した。不気味なほどに鮮やかな笑顔を貼り付けた他会社の社員は、無表情のまま他人事を繰り返す。
「結論はいつでも構わないそうです」
 良い連絡をお待ちしております、それでは資金についてなのですが、ところで人手の問題は、なるほどわかりました、不自然に自然すぎる言葉に僕は笑顔で話をつけていく。部下たちはいまだにどこかぼんやりとしたような、理解できていない顔で焦りだけが先走った様子で、部屋内に視線をうろつかせている。失礼な態度だ、と小さく思うだけだった。僕もよく理解していなかったから特に何も言えるわけでもない。そして何も言ってほしくはなかった。理解したいわけではなかったからだった。馬鹿にでもされているような口調の返答を笑みで交わす。あとで資料にまとめておきたかった、と思った頃には半分以上僕の脳も機能していなかった。

「それでは」
 呟かれるような四文字がようやく耳に入ってきたときには、機械的に立ちあがって笑顔を振りまいていた。向こうの硝子の窓にうつる僕の顔は大手企業につとめる何か、よくわからないような、日常的で義務的な笑みを浮かべている。間違いなく僕のはずだったそれからすぐに目を離した。あとはよく覚えていない。気付いたらビルの外で部下たちが不安げな表情で僕の顔を見つめていた。今にも溜息をついてしまいそうな表情で笑顔を浮かべる。
「正直に言っていいんだけど、この企画、どうしても通したいと思うかい」
 それだけを教えて、と付け足した。部下たちがそれぞれ顔を見合わせる。どこか気抜けしたような声だった、それに気付いたのは僕自身が言葉を発し終わってからで、そして彼らも同じように気付いていた。彼らは何度も言葉に詰まりながら結論を話しだす。40文字ぐらいだった。ようするに、どうしても通したいらしい。僕はわざとらしく笑みを浮かべて肩をすくめた。

作品名:背中 作家名:サユ子