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この手が届いたら

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何が楽しいんだろうか。笑い続ける臨也に、帝人は何か切り返しをと考えて、何も思いつかないので仕方ないから臨也が笑い終わるのを待つことにした。自分が童顔で、騙されやすそうな顔をしていることくらい、とっくの昔に知っているけれど、それを口にするのも癪なので無言を貫く。そうしていると臨也が、急にぴたりと笑いを止めて、帝人を真っ直ぐに見据えた。
「つまりさ、なんで君は俺が悪霊である場合ってのを、欠片も考えないのかなってこと」
人の悪そうな笑顔でそんなことを言う臨也に、帝人はぱちくりと瞬きをする。
「え、臨也さん、悪霊なんですか?」
「そう見える?」
「真っ黒だからですか?」
「・・・君天然って言われない?」
そういう事じゃないんだけどなあ、と呆れたようにため息を付いた臨也に、じゃあどういう意味なのかと首を傾げる。あまりこむずかしいことを言われてもよくわからないし、大体、悪霊ならもっとそれっぽくして欲しい。こう「くくくっ」みたいな感じで笑うとか、背後に怨念の炎みたいなの背負って出てくるとか。
「だって、悪い人なら、あえて警戒心を抱かせるようなこと言わないでしょう」
帝人は首をかしげて、言う。
「それに僕みたいな高校生を騙して何をしようって言うんです?あなた人間に触れないじゃないですか」
「とりついて乗っ取るとかどう?」
「イヤですよ。っていうか臨也さんカッコいいんだから、乗っ取るならもっとかっこいい人乗っ取ってくださいよ」
その顔からこの顔になったらショック大きくないですか?なんて首をかしげた帝人に、そう?と臨也は考えるような素振りを見せた。
「可愛いと思うよ。でも、自分がそうなるより、外から見てたい感じだな」
「ほら、やっぱり」
「何?」
「臨也さん、僕に危害を加える気なんか、ないじゃないですか」
断言した帝人に、臨也はこんどこそ大げさに肩を竦めて、降参、と両手を上げてみせた。それからずっとニヤニヤと笑っていた人の悪そうな笑顔を引っ込める。
「そりゃ、君は貴重な俺の声が聞こえて俺が見える人間だもん。危害を加える気なんかないよ。俺が今こうして話をしているだけで、どれだけ嬉しいか知らないでしょ」
テーブルに肘を突くような格好で、ずいっと帝人に顔を近づけた臨也が、その指先を伸ばして、帝人の額をつんつんとつつくような仕草を見せた。触れることはできないから、真似だけだけれど。
「俺は生物には触れない。無機質なものなら触れることくらいはできるけど、もつことも掴むこともできない。安心しなよ、俺はただ、話し相手が欲しいだけなんだ。ほんと、限界だったんだよ、いろいろと」
疲れたように息を吐く、その仕草からは強い疲労の色が見えた。帝人が彼の声に答えたときに見せた笑顔といい、本当に心底、話し相手が欲しかったのだろう。だとしたらさっきからやけに上機嫌なのも、単に、やっと話し相手が見つかったことをただ純粋に嬉しく思っているだけなのかも知れない。
「人と話すの、好きなんですか?」
尋ねた帝人に、もちろん、と臨也は答える。
「大好きだよ。俺は人間を愛してるからね。言葉って言うのは人柄が滲み出ると思わないかい?回りくどい言い回しの人間は慎重で堅物、砕けた言い回ししかできない人間は、軽い、もしくはそう見せたい。小難しい用語を使いたがる奴は中二病か自分をインテリに見せたい小物。どんなことでも分かりやすく噛み砕いて言う人間は、子供に接する職業についているか兄弟が幼いか。君みたいに、何でも疑問形で返す人間は・・・」
すっと、その白い指先が帝人を差す。
手入れの行き届いた、綺麗な指だなと思った。男の人なのに。


「好奇心が強く、非日常を好む」


あたりだろう?と笑う臨也に、帝人は肯定以外に何を返せるかと思案した。ええそうです、だからあなたという非日常に、実は結構興奮してます、とでも言うべきだろうか?
でもそんなことを言ったとしても、どうせもうバレてるんだし、意味はないか。
「まあ、一般論だよ帝人君」
臨也は肩を竦めるような仕草をして、息を吐く。いちいち仕草が大げさな人だなあと思いながら、帝人は大きく息を吸い込んで、吐く。
「けれどもそんな、好奇心旺盛な帝人君には、俺の話し相手になる義務があるよね」
変な人だ、と帝人は繰り返し思う。
御託を次々と並べて、しかも主張は別に一貫していないし、言葉を沢山吐くことで人を煙に巻く癖があるのかと思うほど掴み所がない。けれども何か、そんな話し方に・・・覚えがあるような気が、する。
「・・・臨也さん、僕に会ったこと、無いですよね?」
確かめるために吐いた言葉は、また疑問形になってしまった。その言葉に片方の眉を上げて、臨也は「どうして?」と尋ねる。
「なんだか、凄く覚えが在るような気がして。気のせいだとは思うんですけど」
素直に答えた帝人は、しかしこんな美形なら一度会ったら忘れないよなあ、とも思う。だからきっと気のせいだと、思うのだけれども。
「ふーん、あるのかも知れないね」
臨也は頬杖をついて、まじまじと帝人の顔を見返した。



「実は、さっきから俺も、どこかで君に会ったかなって考えてたんだ」



全然、思い出せないんだけどね。
記憶喪失気味の幽霊は、そう言って、やっぱり大げさな仕草で肩をすくめた。



作品名:この手が届いたら 作家名:夏野