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たかむらかずとし
たかむらかずとし
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It is NOT my way (to love)

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※やや閲覧注意・静雄がOCDだったら、という話。




 整然と片付けられた部屋を見て、静雄は怒りが燃え上がるのを感じた。
 これは俺のやり方じゃない。
 大して広くもない部屋にものがきちんと片付けられている。
 傍目にはよく整理された、いい部屋に見える。
 でもこれは「俺のやり方」じゃない。
 燃え上がった怒りがちりちりと燻る。
 これは、俺の、やり方じゃ、ない。
 リビングの敷居が跨げない。こんな部屋には入れない。静雄は怒りに腹の底をなめさせながら立ち尽くしていた。
「静雄くん?」
 女が寝室から顔をのぞかせた。
「あんた、ここにあるのに触ったか」
 静雄は呻くように問う。女は何を言ってるの、という風に首を傾げ、こくんと頷いた。
 ───ダメだ。
 静雄は足音荒くリビングに踏み込むと、呆気にとられた女の腕を乱暴に掴む。痛い、と悲鳴を上げるのを無視して引きずるように廊下を戻る。ついさっき、いつもの手順で締めた扉を蹴り開ける。鍵が壊れ、歪んだ扉が弾け返るような音を立てて開く。べそをかいた女を押し出す。
 扉を閉める前に見た女はへたりこんだまま、恐怖を一杯にたたえた目で静雄を見上げていた。
 


 扉を閉めた静雄は廊下をきっちり6歩で戻り、リビングに2歩で入ると、そこにあった全てのものを蹴り倒した。
 倒し、ぶちまけ、かき回し、整然としていたリビングダイニングが混沌に沈むと、ようやく静雄は安堵の息をついて、フローリングに丸くなった。
 片付けるのは明日でいい、俺のやり方で片付けるのは明日でいい。
 とにかく今は眠りたかった。
 静雄は足を揃えて身体を丸め、きっちり3回瞬きをして目を閉じた。
 彼はようやく己の世界に戻ってきた。



 静雄にその傾向があることを最初に指摘したのは新羅だった。
 腐れ縁の級友は、彼が静雄が机の上に放り出したペンと、教科書と、消しゴムの位置をちょっと揃えただけで激怒し、手を挙げる寸前までいったのを目撃した後、静雄に「君はOCDの気があるね」と告げた。
『勿論それが君の怒りの原因の全てだとはいわないけど、いくらかはそのよく分かんない強迫症状のせいだろうね』
 新羅は激怒した静雄の前でけろりと言った。静雄が怒りを孕んだ目で説明を求めると、新羅はううんと唸って天井を見た後、一言でまとめた。
『君はちょっと普通じゃないくらい、我が強いってことかな』
『そんなのとうに分かってんじゃねえか』
 静雄が言うと、新羅はへらと笑った。
『うーん、っていうか、君は君の周りの…より正確には君のものであるところの君の周りの状態が、君の期待した通りであることに過剰に執着してるんだよ。君の思い通り、君のルールに従ってないと異常に不快で、それを正さないではいられない。とにかく君の満足のいく状態でないと不愉快で不安でしょうがない』
 心当たりない? と尋ねられて、静雄は頷いた。彼は自分の持ち物に触られるのが一番嫌いだ。腹の底がざわざわするような不快感と、わけもない不安がこみあげる。
『すごくおおざっぱに言うと、そういうのがOCDなんだよ。君は君のルールに従ってないものを正さないではいられない。それがどんなに理不尽で、意味のない、バカらしいことか分かってても、そうしないではいられない。強迫性障害、OCD。そんなに深刻じゃなさそうだけど、とにかく君にはそういう傾向があるんだね』
 それを分かってるだけでも対処しやすいと思うよ、もし今度今みたいにキレそうになったら、それが君が怒ってるからなのか不愉快だからなのかちょっと考えてごらん。
 新羅は静雄に指をつきつけて言った。
『もしそれが不愉快だから、だったなら、ほんの少し我慢して後で君の思い通りに直してみて。結構キレないですむんじゃないかな』
 静雄としてもキレたい訳では決してなかったし、新羅の言うのももっともだと思ったので、それ以降静雄は自分の怒りを若干客観的に眺めるようになった。勿論あの男のかかわっている時にはそんな手間はかけなかったが。
 静雄は今でも、少々厄介なこの性質を抱えて生きている。
 



(あいつ、いい女だったのにな───)
 静雄は仕事帰り、マックで煙草をふかしながら昨夜たたき出した年上の元恋人のことを考えた。恋人、と呼ぶのも大げさかもしれない。会って二日、二度一緒に飯を食い、一度寝ただけ。
 今度こそ長続きすると思ったのに、結局家に連れて行ったことで駄目になってしまった。どうして女というのは人のものに勝手に触るんだろう。どうして静雄の気に入るようにものを触ってくれないんだろう。
 どうして世の中の人間は誰も、俺の気に入るように生活してくれないんだろう。
 理不尽なのは分かっている。でも静雄はそれが不思議で、そして少し悲しくてならない。どうして世の中には自分を分かってくれる人間がいないのか。静雄のルールを理解し、はみ出さないでいてくれる人間がいないのか。いや、理解しなくたっていい、静雄の許容範囲でさえあれば多少の乱れは我慢する、でもそうしてくれる人間に、静雄は出会ったことがない。
 静雄はぼんやりと二人がけのテーブルの上にシェイクと、ポテトと、煙草の箱を並べる。一番気持ちのいい並び方。シェイクは左側、ポテトは右斜め上で、6センチほど離れた場所に、紙ナプキンを下に二つ折りにして敷いてある。煙草の箱はテーブルの縁ぎりぎりに80度程度の角度をつけて。
 静雄のOCD的傾向はあくまで彼のものの中だけに向けられていたので、外であの不快感と不安感を味わうことは少ない。彼のその性癖は、彼自身にも理解できない法則に従って、それほど多くないいくつかの物事に向かって発現する。それが彼のテリトリー内での物の並べ方や、整理の仕方におおむね限定されていると気付いてからは、大分楽になった。そのため、成人してからは今でもところ構わず爆発する怒りとは違って、随分コントロールできるようにもなった。だが、気の立っている時はこうして少しでも自分の気に入るように物事を整理すると、少しばかり落ち着くことに気付いてからは、彼は時々外でもこれをやる。自分でも若干病的だなと思わないでもない。
 昨日は南池袋であの男と遭遇し、しかもナイフで服をぼろぼろにされた。取り立てに行った相手は静雄を油断させて逃走し、半殺しにしたが金はなかった。トムさんには叱られ、久々に会った幽にはまた心配され、セルティには惚気話を聞かされた。そんな状態だったから、あの女のしたことに我慢がきかなかったのだろう。いつもならもう少しは我慢できたはずだ。
 反省しながら静雄はシェイクを手にとり、すすり、無造作に戻す。彼自身は気付いていないが、元の位置から1ミリとずれていない。
(ああ、くそ)
 俺は何でこんななんだ。それは己の暴力の問題でもあるし、新羅の言うところのOCD的傾向の問題でもある。どちらか一つだけでも十分生きにくいのに、静雄は二つも抱えてしまっている。
 きっと、俺がちゃんと誰かと生きるなんてのは、無理なんだろうな。
 リッパーナイトしかり、昨夜の女しかり。
 静雄の二つの問題は、静雄から生きる相手をむしり取って行く。
 それともどこかにいるのだろうか、自分の共に生きる、生きられる相手が。