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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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It is NOT my way (to love)

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 静雄は苛々とポテトをつまみ、口に放り込む。シェイクを取って、すすり、戻す。
 ルーチンワークのようにきっちり正確に腹を満たしながら、静雄はファーストフード店のガラス窓から道を眺めた。
 混沌とした歩道に特に不快感は感じない。俺は俺のものだけちゃんとしてればいいのに、なんでうまくいかないんだ。静雄は溜め息をつく。
 ふと気付くと、少年がこちらを見上げていた。
(───竜ヶ峰じゃねえか)
 そういえばもう学校は終わる時間だ。雑踏の中、竜ヶ峰帝人は足を止めてガラス窓の向こうの静雄を見上げている。静雄が軽く手をあげてやると、竜ヶ峰はぱっと顔を輝かせて店に向かって歩き出した。
 しばらくすると、ポテトとドリンクの乗ったトレーを持って、竜ヶ峰が階段を上がってきた。
「静雄さん、お疲れさまです」
 ここ座っていいですか、と竜ヶ峰は屈託なく言う。静雄はおう、と頷いて、自分のトレーを少しばかり下げた。竜ヶ峰はにこにこして腰を下ろす。
 先だって知り合ったこの子供は、静雄を怖がらない。何度も目の前で自販機も投げたし、標識も引っこ抜いた。砂になるまでぼこぼこにした(あるいはしようとした)のはあの男だけではない。それでもこの子供は静雄に笑いかけ、時々はこうしてちょっとした時間を共有しようとする。静雄はそれが不思議でしょうがないが、竜ヶ峰と一緒にいるのは控えめに言っても不快ではないし、竜ヶ峰が自分に向ける視線があまりにもまっすぐなので、何も言わずに竜ヶ峰とこうして一緒に過ごしている。
 竜ヶ峰はごくごくとドリンクを一息に半分ほども飲んでしまうと、呆れて見つめる静雄に照れたような笑いを返した。
「喉乾いてて。朝持ってったペットボトル、途中で落っことしちゃったんです」
「あー、そりゃ災難だな」
「ほんとに!」
 竜ヶ峰は顔をしかめた。静雄は苦笑してその頭をぐしゃぐしゃにかき回した。わ、わ、静雄さん! と悲鳴を上げる。静雄は珍しく声をあげて笑った。
 




「あ」
 竜ヶ峰がふと声をあげた。
「ん?」
 とうに空になった蓋付きの紙コップをテーブルに載せたまま、二人はだらだらとだべっていた。会話はあったり、なかったりする。それが妙に心地いい。
 静雄は声をあげた竜ヶ峰の視線を辿った。
「これか?」
 煙草の箱を指す。竜ヶ峰はこくんと頷いた。
「静雄さん、煙草変えたんですか?」
 つい、と指が伸びる。竜ヶ峰にしては珍しく、その指は無遠慮に箱をつまみ上げた。
 静雄のバランスが崩れる。これが竜ヶ峰じゃなかったらやめさせたのに、と静雄は内心呟きながら、笑った。
「お前にゃまだ早い」
「吸いません!」
 身長伸びなくなる、と竜ヶ峰は膨れっ面をする。
 竜ヶ峰は余り馴染みのないものだからか、煙草の箱をくるくる回して観察している。
 一通り箱を眺めた後、竜ヶ峰ははい、とそれを無造作に静雄のトレーに戻した。
「……あ、」
「え?」
 今度声を漏らしたのは静雄の方だった。きょとんとする竜ヶ峰をよそに、静雄はまじまじとトレーの上を見つめる。
 ───ぴったりだ。
(ずれてない)
 静雄は竜ヶ峰が無造作に置いた煙草を自分で手にとり、そして戻した。先ほど竜ヶ峰が置いた位置と同じ。
 静雄は首を傾げ、そんな静雄にいささか困惑気味の竜ヶ峰を見つめた。
「あー…」
「なんですか?」
 静雄は竜ヶ峰の問いかけを無視し、シェイクのカップを差し出した。
「え、え?」
「いいから」
 強引に竜ヶ峰にカップを持たせる。竜ヶ峰は訳が分からないという顔をしてカップを握った。
「それ、戻してみろ」
「ええ?」
 なんなんですか、一体、とぶつぶつ言いながら、竜ヶ峰はまた無造作にカップを戻した───ぴったりに。
「…ずれてねえ…」
「へ?」
 その後、静雄はポテトの袋を丸めたゴミや、ポケットから取り出してきちんと配置した携帯、財布、サングラス、あげくの果てには煙草の一本まで、とにかくその場にあるありとあらゆるものを竜ヶ峰に渡し、静雄のトレーの上に配置させた。
 結果は静雄にとって、驚くべきものだった。
「まさか全部いけるとは…」
「もー、なんなんですか、静雄さん! いい加減にして下さいよ!」
 よく分からない茶番に付き合わされ、竜ヶ峰はとても平和島静雄に対するとは思えないような言葉を吐いた。
 ───竜ヶ峰は渡された全てのものを、静雄がそこにあらねばならないと考える場所に配置したのだ。
 静雄は呆然と目の前の少年を見つめた。ぶつぶつ言いながらストローを噛む少年は、見た目にはごく普通の高校生でしかない。けれど、静雄にとっては、産まれて初めて出会う、自分のルールを許容──というより共有──している人間だった。
「おまえ、それ、どうしてそこに置いたんだ」
 最後に渡した煙草の一本を指して、静雄は動揺気味に尋ねた。竜ヶ峰はぽかんとし、それから肩をすくめて言った。
「どうしてって…別に適当においただけですよ?」
 なんか駄目でした? と竜ヶ峰は途端に不安そうに眉を下げて静雄を上目遣いに見つめた。静雄はぶんぶん首を振る。
「いや! 全然駄目じゃねえ! むしろいい!」
 へ、と訳の分からない態の竜ヶ峰をよそに、静雄はじわじわと感動に浸っていた。
 自分を怖がらない、自分のルールを共有している人間。
(こいつは、こいつが、おれの、)
 静雄はがたんと音を立てて立ち上がると、呆気にとられた竜ヶ峰の腕を掴み、ひょいと担ぎ上げた。
「わ! わ! ちょっと、静雄さん!」
「お前ちょっと今から俺んち来い」
「はあ?! 何言ってんですか、え、マジで、ちょっと静雄さん、下ろして! 下ろして!」
 行きますから下ろして! せめて歩かせて! とじたばたする竜ヶ峰を、歓喜と感動に浸っている静雄は奇麗に無視して店を出、突き刺さる視線をものともせずに交差点を渡る。
(こいつは、こいつなら、俺と一緒に生きられるかもしれない。生きてくれるかもしれない)
 静雄は肩の上の帝人が羞恥で半泣きになっているのにも気付かず、足早に家路を急いだ。
 1メートルを、きっちり一歩半の足並みで。