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無題2

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あいつがいなくなって、初めての春が来た。
ひらひら降ってくる花びらが煩わしい。油断したら髪にくっついてるし、俺の服はシャツ以外黒いから花がついてりゃ目立つ。
パタパタ服を叩いていれば、咥えていた煙草の灰が地面に落ちる。
フィルターを焦がす前に、慌てて携帯灰皿へと突っ込んだ。

休みの日は俺はよく公園へ来る。
今日もいつものようにそこのベンチに座って、ぼーっと空を見上げた。
ポケットに突っ込んだままだった小銭が、時々身じろぎするたびにチャリチャリと音を立てる。
普段よく投げている赤い自販機、街のどこにでもあるそれはこの公園の入り口にも置いてあった。
どうせだから、と立ち上がり小銭を突っ込む。
ボタン2回押すと、がたんがたんと2本の缶コーヒーが落ちてくる。
1つはプルトップを開けながら、もう1つは片手に持ったままベンチへと戻って、開けていないほうのコーヒーを自分の隣へ置いた。

一口飲めばいつもの甘い味。
俺が甘いものが好きだとあいつに気付かれたのはいつの頃だったか。
そういえばこんな春の日だったような気がする。

「静雄さん、喉乾きませんか?」
「おー・・そうだな、なんか買うか」
「じゃあ僕買ってきますね。何がいいですか?」
「あ゛ー、お前と同じのでいいわ。これ財布持ってけ」
「え!?いいですよ、僕払いますから・・・」
「もって、いけ」
「・・・わかりました。ありがとうございます」

戸惑ったみたいに、眉尻を下げた笑みを向けて、あいつは自販機に駆けて行った。
あとで財布を見てみれば減ってない気がして、苦い思いをしたことも思い出した。
俺に財布を返しながら、あいつは缶コーヒーを2本持っていた。甘い味のこれを。

「コーヒーか」
「あ、はい。お茶にしようかと思ったんですが・・えと、大丈夫でしたか?」
「おう。サンキューな」
「いえ!・・・って、あ、すみませんこれ甘いやつでした!静雄さんブラックですか!?」
「あっ?いや、俺ブラック飲めね・・・・あ」
「・・・飲めない」
「・・・・・・・」
「・・・す、すみません、ちょっと意外だったもので・・・」
「別に・・・」

気まずそうに誤魔化すような笑顔で、あいつは一口コーヒーを飲んで、美味しいですねと呟いた。
だから俺も一口飲んで、あぁと答えた。
それからは、出会うたびになんとなくこのコーヒーを2人で飲んだ。
同じようにベンチに座って。空を見上げて。
たわいない話をして、警戒心がねぇのか近寄ってくる猫の相手をして、笑って、笑って、笑いあって。

あいつとの距離は近くもなく遠くもなかった。
来良の後輩であり、一時期所属していたチームのチームメイトで、友人の知り合いで、俺を怖がらないやつだった。
顔を合わせて話して手を振って別れて、その程度の間柄だったけど、俺には貴重な存在だった。
だけど、その距離は決して近すぎはしなかった。
俺はあいつの携帯番号すら知らなかったし、兄弟がいるのかとか、服とか食べ物の好みとか、趣味とか、そういうものは知らなかった。
いつもしていたたわいない話の中に出てきたこともあるのかもしれないが、取り立てて記憶まではしていない。
俺がぽつぽつとした話も、あいつの中でどの程度蓄積されていたのかもわからない。

あいつとの距離は近くもなく遠くもなかった。
知り合いとも、友人とも言えない距離感だった。
それが心地よかった。


幸せだった。



閉じていた目を開ける。
青い空の中に、ひらひらと舞い散るピンク色。

(綺麗だな)

そう素直に思ったから


「綺麗だな、竜ヶ峰」


ごくりともう一口コーヒーを飲む。
お互いが好んで飲んだ安っぽい缶コーヒーだ。
そよそよと吹いている風の中に、俺は音を探した。
車の音、枝が揺れる音、遠くから聞こえる子供の遊ぶ声、幽かな足音。
その中のどこにも俺が探している音が聞こえない。

そうですね、とか、きれいですね、とか、優しく返してくれるはずの声が聞こえない。

作品名:無題2 作家名:ジグ