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無題2

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ふと足元にぬくもりを感じて見てみれば、にぁと鳴く猫がいた。
さっきの足音はこいつだったのかと苦笑して軽くて小さな体を持ち上げる。
よくあいつと一緒にここにいた時に遊んだ猫だ。
少し汚れた白い毛並みを撫でてやれば、気持ちよさそうに伸びをする。そして喉も撫でろとばかりに、俺の無骨な手に体を擦りつけてくる。
最初は戸惑って指先を動かすことすら怖かったけど、あいつが「大丈夫ですよ。生き物は案外丈夫に出来てるものですから」と言って俺に無理やり猫を押し付けてきた。
少し力を入れただけで簡単に死んでしまう、その恐怖に打ち勝てたのも、あいつが笑って俺に猫を抱かせてくれたからだ。
持ち方も、撫で方も、猫が俺の膝の上でまどろむ姿が見れたのも、全部教えてくれたのはあいつだった。

にぁ、と猫が鳴く。
俺の膝の上で、俺の隣を見て鳴いている。
俺が背中を撫でて、もう一本の柔らかい手が頭を撫でてくれるのを待って、ないている。

にぁ、にぁ、、となくのを俺には止められない。


「・・・っ、なぁ、竜ヶ峰」


綺麗だな、世界は綺麗だな。
ピンクの花びらも、白い雲も、青い空も、薄汚れていると思っていたこの猫の白い毛並みも、踏み固められた地面も、路傍に咲く雑草も、無機質なビルも。
当たり前に思ってたそれが、そこにあるんだってことが。
こんなにも暖かくて、風は優しくて、ぼんやりした休日の午後に猫と戯れて、


「なぁ、綺麗だな。幸せだな。優しいなぁ・・・っ、」


なのに、寂しいな。


俺はこんな化け物みたいな力を持っているのに、池袋最強とか言われているのに、隣に置いたままのこの缶コーヒーのプルトップ一つ開けられない。
隣で生ぬるくなっていくだけの缶コーヒーを、お前の手に握らせることすらできない。
にぁにぁとなく猫を宥めてやることすらできないんだ。

俺たちはどんな話をしていた?
お前は笑っていた。俺も笑っていたんだ。
たわいもない話だった。今思い出すことすらできないほどに、いつも通りで当たり前で、俺は携帯番号すら知らなかったし、兄弟がいるのかとか、服とか食べ物の好みとか、趣味とか、そんなことも知らなかった。
俺たちの距離は近くもなく遠くもなく。


「俺は、お前から貰ってばっかりだ」


幸せだった。
ずっとずっと幸せだった。
一緒にいたときは当たり前すぎて、今思い出すことすらできないほどに、いつも通りで。
それが幸せだったと気付いた時には遅かった。


「竜ヶ峰、竜ヶ峰、りゅうがみね、りゅ、が、みね・・・りゅ・・・、みね・・・・・みかど」


お前はどんな話がしたかったのかな。
俺と一緒にいた時間は、お前にとって幸せだったのか。
お前から貰ったあの優しさを、俺はお前に一つも返せなかった、ただここにいることしかできなかった。
だけど来てくれたから。いつだってお前はこのベンチで俺と笑って、隣にいてくれたから。
もう勝手に思うことしかできない。



「みかど、帝人、幸せだったか? お前も、幸せで、いてくれた、か? なぁ、―――――」
作品名:無題2 作家名:ジグ