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僕たちは二人して叶わない恋をしている

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 仕事終わりに直帰しようとする姉を引き止めて、僕はスタバに入った。明後日の台本のチェック、と姉は言ったが、そんなん僕がやるんやから、と言うと割とあっさり店に入ってモカ・フラペチーノとクッキーを頼んだ。僕はホットラテ、だって、お姉ちゃん、今11月やんな? なんで夜の9時に外で氷とクリームのかたまり食べる気になれるん?
 疑問はあんまり意味を持たずに浮かんでは消えて(なぜなら浮かんだそばから僕には姉がそういう選択をする理由が大体分かってしまうから)、僕はトレイを持って一人がけの低めのソファが二脚用意された席に向かう。姉は注文の途中からするりと列を脱して席取りをしていた。
 ソファに座った姉はかちかちと携帯でメールをしている。僕が前の席に座ると、えいやっと掛け声つけてメールを送信し、ぱちんと携帯を閉じた。
「はい、フラペチーノ」
「ありがと」
「お腹、冷えん?」
「冷えたらしぃちゃんのラテ貰う」
「……ええけど」
「今な、和たんにメールしてん。今日も大好きよ、だからいつでも頼り、って」
「そうやったん」
 僕はスティックシュガーを衒い無く逆さにしてカップに落とすと、スプーンでぐりぐりかき混ぜた。時間帯のせいか、店に居るお客たちはどこか疲れているように見えた。さわさわと行き交う会話の上を適当な洋楽が滑っていく。多分、あと三時間もすれば明日になることを忘れたい気持ちと比例してずるずると居座ってコーヒーを飲んでしまう人たちの耳には、やさしくも届かない音楽なのだろう。
「誰のこと?」
「それも和たん。あと着流しさん」
 僕と姉の日常のひとつに、鮮やか過ぎる話題転換がある。息が揃っている僕たちからすればそれは自然なものだが、一緒に談笑していた役者仲間さんなんかは度々おいてけぼりを食らっている。
 昼間、メイクさんの登場によってさえぎられた質問を再度向けた僕に、姉も姉で的確に簡潔に答えを寄越した。
「なんで終わらせたらいいって思うん? ていうかあの人ら、始まっとったっけ?」
「曖昧であやふや。和たん、名前の通りに関係和ませて、それで、それだけ。でも着流しさんも臆病さんや。大切に大切にして、ほんと、うらめしい」
「羨ましいじゃなくて!?」
「しぃちゃんかて知ってるやろ、うちは和たんが大好きで愛してて、着流しさんには恋してる」
「知っとるけど」
「和たんが幸せになるんならうちも幸せな気持ちになるわ。でもな、今、ふたりとも駄目」
「……お兄さんから聞いてる」
 というより、お兄さん――和さんから聞いたのは彼本人の思うところであって、僕はそれを聞いた上で着流しさん――日織さんの今のきっと苦しいんだろう状況まで想像して、それでやっと見えてくる彼らを思って、はぁ、とため息をついた。
「溜息吐いたら」
「幸せ逃げる? なら飲んどくもん」
「しぃちゃんの幸せはそのカップの中?」
「そうや。幸せなんてどこにでもある」
「うふ。うそつき」
 ラテの取っては予想以上に熱く、僕は驚きを顔に出さないようにコップのふちに唇を寄せると、飲む振りをして泡だけを舐めた。
 軽口はさておき、と僕は真面目さを背負って姉に言う。
「でも僕、壊したら駄目なものもあると思うよ」
 物と違うから、きっと、お兄さんは一度壊れたら壊れたまま動き出す。しなやかな人だ。壊れた部分をかばうように、動かせる別のところを使って生きていくんだ。けど着流しさんはきっと駄目だ。あの人は壊れたらゆるやかにゆるやかに動きを止めていくに違いない。
 けれど姉は、ううん、と首を横に振った。フラペチーノのプラスチック・カップから引き抜いた白いスプーンをぺろりと舐める、舌が、あかい。
 うわあ、ぞくぞくする。
「壊すんちゃう、終わらすの」
「?」
「一日とおんなしや。朝があって、起きて、いろんな人にあって、昼があって、いろんなことがあって、夜になる。夜は考える時間。あの人らはもうずっと夜ばっかり。だから、一度終わらしてあげたら、ええのに」
 昼と全く同じ調子で姉はそれきり黙ってしまった。
 厄介な恋をしている。
 ぼうっとした表情でフラペチーノを吸い上げるくちびるは僕と殆ど変わらない形をしているのに、恋をしているというだけで愛らしく見えてくる。
 何だって愛している人と恋している人とを別々に考えられるのか僕には理解できない。愛も恋も僕には同じだ。全部、一人の人に収束している。
 自分は何にも手に入らないところに居て、ほしい二人が二人ともお互いのために動けずにいて、しかも不可逆に頼られているなんて、――しかも自分に頓着しないなんて。
 姉は単純ないいひとではないので、あの二人のうちどちらかがどちらかから離れれば必ず狙いにいく。正しすぎることを言って結果誰かを傷付けるのも厭わない。でも、姉は賢い人だった。賢くて夢見がちな人だった。
 だから納得しないんだろう。悉くお兄さんの幸せを願ってしまうんだろう。
 一度終わらしてあげればいい、と言った姉に、一度ってなに? と聞けばよかった。
 そんなの、もう一回、があるみたいやん、もう一回を予想してしまうくらい、お姉ちゃんの中ではちゃんと片付いたことになってるの? って。お姉ちゃんは一体どうしたいんや? って。
 それともこの奇想天外な姉は、ふたりまとめて手に入れようとでもしているんだろうか。
「……」
 ひとつ、僕にとってうらめしいことがあると言うのなら、それは僕が彼女のほしいものに入っていないことだった。
 水と水。絶望的に近すぎる。
 僕が表面を舐めただけのラテを指差して、
「さむい。貰ってええ?」
 と聞いてくる姉は、もうさっきのやり取りは昨日の出来事かなにかで、今一番大切なのは冷えた指とお腹を暖めることだといわんばかりだった。カップをソーサーごと押しやると、姉はラテを飲んでほうっと息を吐く。
「うん、やっぱり幸せはカップの中にあるんやね」
「……うそつき」
「うふふ」