GUNSLINGER BOYⅡ
君の見る夢
僕には、繰り返し見る夢がある。
頻度は1、2週間に一度ぐらい。
とても恐くてとても懐かしくてとても悲しい夢だ。
見たことないはずなのにどこか懐かしさを感じる家。顔の見えない〈父さんと母さん〉
よく喋る金髪の少年。おかっぱの少女。・・顔はやはりもやがかかったように思い出せない。
そして、彼らと一緒に歩く自分。
夢のなかの自分は彼らを知ってるらしく、親しげに話す。
しばらく話しながら歩くうちに突然景色はぐにゃりと歪み、彼らの姿も見えなくなってしまう。
気づくと〈家の中〉で、突然大きな音がして黒い大きな獣が3匹ガラスを突き破って入ってくる。
獣は父さんと母さんを噛み殺すと自分の方へ迫ってくる。叫ぼうとしても恐くて悲しくて痛くて声が出ない。
逃げようとしたら両手を縛られて、生きたまま体を喰い散らかされた。頭まで食べられると周囲は真っ暗になってしまった。
・・暗く閉ざされた世界で、こそこそと何事かを囁く声だけが聞こえる。
『こ・・子はもう・・・・・ですから・・・・れば、報酬も・・・・』
『分か・・・・・・書類に、サインを・・・・・ます』
かすむ意識の中で、 ああ僕は死んだんだった と思う。
死んだ。僕は、あの時。
ああでも、あの時っていつだっけ。
僕は、誰なんだっけ・・・・・?
はっと目を開く。
視界に入ったのはいつもの天井だった。
「・・・・?」
目頭が妙に熱くて、触ると濡れていた。
この夢を見た後はいつもこうだ。
「帝人くん・・?」
呼ばれてそちらを向く。
隣で寝ていた臨也さんは僕の顔を見るなり眉間にしわを寄せた。
臨也さんの顔を見たらなんだかほっとして、また涙が流れる。
「なんで泣いてるの」
「いざやさん・・・ぼく、本当は誰なんでしたっけ・・」
「・・・・」
頭にあった疑問を口にすると臨也さんは更に不快そうな表情になって、
無言で僕を引き寄せると頬に伝っていた涙を舐めた。
「また、怖い夢みたの?」
「・・はい」
間近にある臨也さんの赤い瞳が暗い光を帯びている。
怒っているようだけど、何に怒っているのか分らない。
「君は帝人。俺のフラテッロ。それ以外の何でもない」
臨也さんの唇が僕の額に触れた。
そして、静かだけど有無を言わせないような口調で呟く。
「今日一番の命令だ。夢のことは忘れろ。いいね?」
「・・了解しました。臨也さん」
答えると手の拘束は解けて、
後は二人とも何事も無かったかのようにベッドから起き出した。
今日は急な任務が入らなければ銃の訓練だ。
一日の予定に思いを巡らせながら臨也さんの着替えを用意する僕の頭の中からは夢のことは薄れて消えていった。
ただほんの少し・・胸の奥がちくりと痛んだ。
「義体が生前のことを夢に見るのは珍しいことじゃないよ」
新羅は自分の頭を指でつつきながら言う。
「いくら洗脳で記憶を抹消したと言っても意識の深い部分には過去の記憶が染み付いてる。
しかも帝人君の場合は条件付けが甘いし仕方ないと思うよ?
それに、別にその夢のせいで任務に支障があるわけでもないんだから気にすることないんじゃないの?」
「・・だって、気に入らない」
臨也はイラついたように吐き捨てた。
支障が無いから気にすることない?
そういう問題じゃない。
「帝人君の記憶は俺と会ってからの分だけでいいんだ。他はいらない。
帝人君は俺のだ。俺のことだけ考えてればいいのに、夢とはいえ俺以外のことで泣くなんてマジありえない。ムカツク」
「いや、義体が担当官を最優先にするのはフラテッロとしては正しいけどさ・・」
「だろ?俺の言ってることは正しい」
「・・臨也の場合、ただの嫉妬じゃないか」
「ん?」
「いや、何でもないよ」
触らぬ神に祟り無し。
帝人の苦労を思いながら新羅は深くため息をついた。
「でも・・確かに、怖いことまで夢に見てるならどうにかしてあげたいけどね・・」
「怖いこと?」
「帝人くんがここに収容される理由になった事件のことだよ」
「・・・それ、いいかげん聞かせろよ。この俺がいくら探しても資料が見つからないんだよ」
「そりゃ、技術部と情報部の一握りしか知らないことだしね。データにも残ってないし。それに臨也には教えちゃいけない気がする」
「なんで」
「教えたら臨也、刑務所に乗り込んで殺人事件起こしかねないから
誰かを脅して聞き出すのも駄目だよ。そんなことしたら帝人くんの担当やめさせられるかもね」
「・・・帝人君を人質にするとか、最低。」
「自分と合う前の帝人君が要らないっていうなら別にいいじゃないの。夢についてはどうやったら見ないようにできるか色々検討してみるよ」
臨也はやりきれなそうな表情で背を向け、乱暴に扉を閉じて出ていった。
作品名:GUNSLINGER BOYⅡ 作家名:net