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ありえねぇ !! 4話目 前編

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そのミッキーのぬいぐるみの足元に、四通の手紙が置かれていた。

一つは【竜ヶ峰 帝人】宛て。
もう一つは【紀田 正臣】宛て。
もう一つは【セルティ・ストルルソン】という知らぬ名前で。
最後は【赤林のおじさま】宛て。


自分宛ての中身を開けば、カードが一枚入っていた。
其処には娘らしい可愛い文字で【私はある方と一緒にこの街を去ります。どうぞ捜さないで下さい。何のご恩もお返しできず申し訳ありません。大変お世話になり、ありがとうございました。さようなら】と、綴ってある。


それで、覚悟の失踪だと知った。
恐らく、少年達に宛てたのも、同じような文面が綴られていたのだろう。

「何で那須島なんかと!?」と、「どうして僕達に相談してくれなかったんだ」と怒り、号泣するそれぞれ二人に、自分はかける言葉も資格も無かった。



結局、警察に捜索願すら出せなかった。
組が、那須島を始末すると決めたのだ。後々、余計なことを詮索される訳にはいかなくて。
ならば、自分が男の元に向えば、杏里をこの手で助ける事ができると信じ、あえて志願したのに。


何故彼女は居ない?
何処に行ってしまったんだ?



なあ、杏里ちゃん。

おいちゃんは、本当に駄目な大人だよなぁ。
本当に大切だったものを、愛したものを。
失ってからいつも後悔する。
嫌、後悔しかできないんだ。
いつも、いつも、いつも……………。


「……すいません、沙耶香さん……」


貴方が命を捨てて守った娘を、自分はまた傷つけてしまいました。
でも、必ず捜し出します。
だから少しだけ、待っていてください。



★☆★☆★



社長からトム宛に連絡が来たのは、マックで昼食を取っている時だった。


「静雄、那須島の回収を担当した奴判ったぞ。【粟楠会の赤鬼】さんだとよ。色々探ったらしいが、一般人じゃぁここまでで限界だ。けど彼が噂通りの男なら、まず園原は最悪な目に合わずに済む。ちょっとラッキーだったべ」
その男は、噂に疎い静雄でも知っていた。
赤林は【粟楠会の赤鬼】と異名を取る武闘派だが、昔気質の任侠を貫き、薬と売春を嫌い、決してか弱い女子供には手を上げない、比較的温厚なヤクザな筈。
少し気が楽になった。

「けどその人って、確か幹部じゃなかったっすか。それが何でパシリがやるような、回収仕事やってんすかね?……」
「さあな。で、岸谷、お前の知ってる奴?」
「そりゃ私の仕事柄、面識はありますよ先輩」

闇医者の新羅の拠点は池袋だ。
しかも彼はかなり腕利きらしく、高校を卒業して以来、五年間ずっと粟楠会からの仕事は途絶えた事がない。
組と繫がりが深かったのは僥倖だ。

「けれど私に依頼するのは大抵四木さんという人で、彼は相当赤林さんを嫌っているから、直接連絡取るのは難しいかも……」
「新羅、うざい事言ってねぇで、とっとと橋渡ししろや。それとも、もっと顔腫らすか?」

シェイクを啜りつつじろりと白衣を纏った男を睨みつけと、新羅は勢いよく首を横に振った。
昨夜、恋人の嘆きを文字通り一身で引き受けた男の顔は、一夜明けた今、随分と酷い事になっている。
目の回りは青痣がくっきりつき、パンダみたくなっているし、熱を帯びた頬は膨れ上がり、正に顔面パンチを大量に食らったボクサーの面構えだ。


そんな顔で『池袋の自動喧嘩人形』の真横に座っているから、まるで自分が殴ったみたいに、周囲に思われていやがる。
面白くねぇ。
唯一の癒しは、膝の上ですやすや眠る、帝人の首だ。
彼は朝からの三階までの強行クライミングに疲れたのか、昼の休憩に入った途端爆睡してしまった。
寝顔は可愛いし、突付くと身動(みじろ)ぎ、もぞもぞ動くし、寝言もなにやら呟くし、起こしてしまわないよう、ちょっかいかけるのもスリルである。


「静雄、赤林さんが、今からなら少しだけ時間があるって。どうする?」
携帯を手に、新羅が聞いて来る。
自分もトムの顔色をそっと伺う。
そりゃ勿論行きてぇが、これでも社会人。スケジュールは上司次第だ。

「いいっていいって、行って来い。時間調整はやっとくし、今日もミカド君が沢山手伝ってくれたから、夕方まで余裕あるしよ。俺は会社で書類整理をやっとくから」
「ありがとうっす」
寝ているミカドを起こさないよう、そっとトムに手渡す。
彼も昨日SEIYUで手袋をわざわざ購入してくれたのはいいが、色が黒だった為、会社の人間達から静雄とお揃いに見られ、不本意にも、朝から奇異な視線をたっぷり浴びる羽目になった。

だがそれも全て帝人の為だと思えば、何てことはない。
イライラも我慢できる。

「よっしゃ、んじゃあ行くとすっか。新羅、お前何て言ってアポ取り付けたんだ?」
「ん? 普通に【行方不明になった、園原堂のお嬢さんを捜しています。ご存知ありませんか?】とね。最後に【那須島隆志と駆け落ちした少女です】って、付け加えたけど」

それは暗に『お前ら回収にかこつけて、女の子に何かしたんじゃねーか?』と言う脅しが込められているってバレバレで、静雄の額に血管が浮き出し、トムも大仰に溜息をつき顔を手で覆って天を仰いだ。

「じゃあ、結果は電話で教えてね♪」と、いそいそと家に逃げ戻ろうとした新羅の襟首をしっかり掴む。
「ああ、ざけんなよ。てめぇも来るに決まってんだろが!!」

静雄は新羅を文字通り引きずりつつ、まっしぐらに粟楠会の事務所へと向った。