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ペンからの考察

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「あ」
「どうしました?」
「・・・いや、なんでもない」
「そうですか。僕はこれだけなので先に会計してきますね」
「ああ」
 別に一緒に買いに来たわけじゃなし、わざわざ俺に断りなど入れなくてもいいだろうとかいつもなら言いそうな俺だが、気付いたことのせいでそれどころじゃなかった。
 そう、このペンの持ち主。俺は確かにコレを持ってる奴を見た。俺のよく知ってる奴。あいつは俺のこと知らなかったが。
 やはりこのペンを持っていたのは古泉だ。
 ただし、今一緒に話していたこっちの古泉じゃない。
 クリスマス前、世界がそっくり変わってしまった、改変された、あの世界の古泉が、持っていたんだ。
 俺が放り出された世界がパラレルワールドなのか俺以外が改変された世界なのかを図解するために、使っていた。胸ポケットに指していたりしてそんなにお前は頻繁にメモでも取るのか、ペンケースはどうしたとかちょっと思ったりして印象に残ったんだ。つか、こんな馬鹿高いものをそんな気軽すぎるほどに扱ってていいのか。あっちの古泉はボンボンか。高校生が買えるもんじゃないだろ。
「・・・プレゼント、か」
 例えば入学祝いであるとか誕生日であるとか、そういうのでもらったと思えば多少値の張るものでも納得がいく。
 文房具という勉学に使用できるものならば同じ値段分のゲームソフト等より親はよっぽど良いと思ってプレゼントすることもあるだろう。きちんと使いそうに思えるほどに真面目な古泉ならばなおさら。あっちの古泉はそうしてもらったのだろうか。
 ただ、こっちの古泉は持っていない。
 祝い事でのプレゼントはなかったと言った。
 つまりあっちの古泉みたいにプレゼントしてくれる人がいなかった?
「・・・・・・・」
 なにやら混乱してきた。
 そういえばアイツの家族構成など聞いたことないし、普段の生活なんかすらもほとんど聞いたことがない。それを想像したりして考えると、なにやらもやもやしたものを感じる。
「くそっ・・・」
 たかがペン一本でなんでこんなこと考えるんだ。古泉が分不相応なものに憧れるからだ。俺がつい古泉について考察しちまったからだ。
 ガラスケースの前をようやく離れ、俺はシャープ芯と、それとよくある何の変哲もない、高くない普通のノック式ボールペンを一本つかんでレジへ向かった。
 ちょうど会計の終わった古泉が「決まりましたか?」などとこちらに暢気な笑顔を向けてきた。
 くそっ、お前のせいでボールペン一本分余計な出費だ。
「古泉」
「はい?」
「やる」
「え」
 袋に入れてもらった直後に取り出したりして店員には悪いが、買ったボールペンは古泉に押しつけた。
「あの・・・?」
「高校生にはそれで十分だろ」
「ええと・・・なぜ?」
「いいから」
 古泉のせいだといいつつもこれは俺のただの自己満足だ。
 古泉にあのペンを持っていた記憶ももらった記憶もない。改変された世界のことでしかなく、その世界も俺が消した。もしかすると幸せだったのかもしれない古泉の世界は消したのだ。
 罪滅ぼし?いやそんなんではない。俺は元の世界を選んだことを後悔してはいないし悪いとも思ってない。
 本当にただの自己満足でしかない。古泉がもらったことないというなら俺がやろう、などという自己満足で偉そうな理由だ。わけわからん。しかも古泉からすればもらう理由は全くない。さらに言うとやったのはただのどこにでもあるボールペンだ。すでに古泉が自分で持っててもおかしくないぐらいによくあるペンだ。
 ・・・なにやってんだ。
「すまん、いらないならいいんだ。ただお前にやりたいだけなんだ」
「・・・いえ、頂けるのでしたらありがたくいただきますよ。突然だったので多少驚きましたが。ありがとうございます」
 謎のプレゼントを古泉は礼を言って受け取ってくれた。俺の謎な行動に何かありそうとでも悟ってくれたのだろうか。なんだ気を使わせただけじゃないか。
 何をやってるんだろうなぁ。馬鹿高いとは言えただのペン一本でうだうだ考えたりして。
「そのうちでいいので・・・」
「ん?」
 俺が押し付けたボールペンをどうしてだか大切そうに握り締めて古泉は、ふ、と笑った。
 少し、意地の悪さを覗かせて。
「この『プレゼント』の意味を教えてくださいね」
 と、言われて改めて説明するとか羞恥で悶え転がりそうだが、説明なしじゃ余計自己満足すぎるよな。

「・・・まあ、そのうちな」



end
作品名:ペンからの考察 作家名:由浦ヤコ